老女としより)” の例文
『無い筈はないでせう。もつと此辺このへんでは、戸籍上の名とうちで呼ぶ名と違ふのがありますよ。』と、健はくちを容れた。そして老女としより
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
老女 ある人はわたしのことを「かわいそうな老女としより」と云っている、ある人は「フウリハンの娘のカスリイン」とも言っている。
老女としよりの方が実はこはいのサ」と、松島の呵々大笑かゝたいせうして盃を挙ぐるを、「まア、お口のお悪いことねエ」とお熊も笑ひつ「何卒松島さんお盃はお隣へ——」
火の柱 (新字旧仮名) / 木下尚江(著)
糸をとるにしても、製糸工場はしばらくおき、とぼしい、かなしげな小屋で、老女としよりが鍋で煮ながら繰出してゐるのを見ると、手の指はまつ白にうぢやぢやけてゐた。
桑摘み (旧字旧仮名) / 長谷川時雨(著)
私の家は老女としより始め舊式な女ばかり揃つて居る家ですが、其の私の家へ始めてフライ鍋を輸入して、手製の洋食がべられるやうにして呉れたのはおしづさんでした。
「青白き夢」序 (旧字旧仮名) / 森田草平(著)
でもおしげは、老女としよりだけに、なかなか口をきらなかった。
野槌の百 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
『あゝゝ。』といふ力無い欠呻あくびが次の間から聞えて、『お利代、お利代。』と、しはがれた声で呼び、老女としよりが眼を覚まして、寝返りでもたいのであらう。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
それがもとでの間違いであろうが、祇園町にいた老女としよりが、東京のあるところへ来て
モルガンお雪 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
隣室からは、床に就いて三月にもなる老女としよりの、幽かな呻声が聞える。主婦あるじのお利代は、たらひを門口に持出して、先刻さきほどからバチヤ/\と洗濯の音をさしてゐる。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
自慢の弟子にしてくれていた長唄六三郎派の老女としより師匠から、義理で盲目めくらの女師匠に替えられたりして、面白味をなくしていたせいか、九歳ここのつの時からはじめていた、二絃琴の師匠の方へばかりゆくのが
何やら探す様な気勢けはひがしてゐたが、がちやりと銅貨の相触れるひびき。——霎時しばしの間何の物音もしない、と老女としより枕頭まくらもとの障子が静かに開いて、やつれたお利代が顔を出した。
鳥影 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
品の老女としよりで、糸を繰る手はやめなかったが
糸繰沼 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
老婆おばあさん、いくら探しても、松三郎といふのは役場から來た學齡簿の寫しにありませんよ。』と、孝子は心持眉を顰めて、古手拭を冠つた一人の老女としよりに言つてゐる。
足跡 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)
老婆おばあさん、いくら探しても、松三郎といふのは役場から来た学齢簿の写しにありませんよ。』と、孝子は心持眉をひそめて、古手拭を冠つた一人の老女としよりに言つてゐる。
足跡 (新字旧仮名) / 石川啄木(著)
『あゝゝ、よく寢た。もう夜が明けたのかい、お利代?』と老女としよりの聲が聞える。
鳥影 (旧字旧仮名) / 石川啄木(著)