ひる)” の例文
旧字:
にほひですこと」と三千代はひるがへる様にほころびた大きな花瓣はなびらながめてゐたが、それからはなして代助に移した時、ぽうとほゝを薄赤くした。
それから (新字旧仮名) / 夏目漱石(著)
お君はそう云うと、身体をひるがえして、上気した頬のまゝ、階段を跳ね降りて行った。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
ところが二カ月の末になって、僕は突然自分の片意地をひるがえさなければ不利だという事に気がついた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
独立した生計を営なんで行かなければならないという父の意見をひるがえさせたものは堀の力であった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
津田の眼に残った瞬間の印象は、ただうつくしい模様のひるがえる様であった。彼は動き去ったその模様のうちに、昨夕階段の下から見たと同じ色を認めたような気がした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
今の兄はひるがえしがたい堅い決心をもって自分に向っているとしか自分には見えなかった。
行人 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
ところが写実主義というものは別に旗幟きしひるがえして浪漫派のむこうを張ってるんだから
創作家の態度 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
思う間もなく色のあるものは、濁ったくうの中に消えてしまう。漠々ばくばくとして無色のうちに包まれて行った。ウェストミンスター橋を通るとき、白いものが一二度眼をかすめてひるがえった。
永日小品 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そう解釈しつつも当時に出来上った信はまだ不自覚の間に残っていた。突如として彼女が関と結婚したのは、身をひるがえすつばめのように早かったかも知れないが、それはそれ、これはこれであった。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)