羽搏はう)” の例文
さっと浮世に返ると、枯蓮の残ンの葉、折れた茎の、且つ浮き且つ沈むのが、幾千羽の白鷺しらさぎのあるいはたたずみ、あるいは眠り、あるいは羽搏はうつ風情があった。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
遠い礼拝堂で十五分毎に打つ鐘が、しろがねの鈴のやうに夜の空気をゆすつて、籠を飛んで出た小鳥の群のやうに、トビアスの耳のまはりに羽搏はうつ。次第に又家々に明りが附く。
「さようでございます。風俗はとんと火の燃える山の中からでも、翼に羽搏はうって出て来たようでございますが、よもやこの洛中に、白昼さような変化へんげの物が出没致す事はございますまい。」
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
それと同時にの恐るべき禿鷲コンドルの爪が、その愛児嬢次を虚空に掴みつつ、日本に飛んで来まして、その恐ろしい翼で、妻ノブ子を羽搏はうとうとしている事実がありありと感じられておるのであります。
暗黒公使 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
わが歌は鴿はとにやや似るつばさなり母ある空へ羽搏はうち帰れと
恋衣 (新字旧仮名) / 山川登美子増田雅子与謝野晶子(著)
あぜ一つ飛び越え羽搏はうつ寒鴉
五百五十句 (新字旧仮名) / 高浜虚子(著)
飛び羽搏はうつもの。
海豹と雲 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
か何かで、時々歩行あるきながら、扇子……らしい、風を切ってひらりとするのが、怪しい鳥の羽搏はう塩梅あんばい
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
やあ、緑青色の夥間なかまじよ、染殿そめどの御后おんきさい垣間かいま見た、天狗てんぐが通力を失って、羽の折れたとびとなって都大路にふたふたと羽搏はうったごとく……あわただしいげ方して、通用門から、どたりと廻る。
白金之絵図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)