ひぐま)” の例文
隅の階子段はしごだんて空ざまに髯をしごいた。見よ、下なる壁に、あのひぐまの毛皮、おおいなる筒袖の、抱着いたごとく膠頽べたりとして掛りたるを——
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
このほど、友人が私のところへやってきて、君は釣り人であるから、魚類はふんだんに食っているであろうが、まだひぐまの肉は食ったことはあるまい。
香熊 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
ひぐまにあらず、この国ではめったに見ることができない、というよりも、太古以来絶えて存在を許されていない種類の動物、唐国からくにの虎という獣に似たやつが一頭
大菩薩峠:41 椰子林の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さてまた大王が配下には、鯀化こんかひぐま黒面こくめんしし)を初めとして、猛き獣なきにあらねど。
こがね丸 (新字旧仮名) / 巌谷小波(著)
一人は眼の鋭い毛の赤い、ひぐまのような感じのする若い男、一人は東洋人との混血児あいのこらしい、栗色の髪で額を隠し、宝石をうんとちりばめたギラギラする洋服を着た、妖婦型の若い婦人です。
天才兄妹 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
さう云つたかと思ふと、勝平はひぐまが人間を襲ふ時のやうに、のツと立ち上つた。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
右手のやぶがガサ/\と音がしたので、急いで銃を取り直すひまもなく、いきなり目の前に、牡牛をうしのやうな大きなひぐまがあらはれ、後ろ脚でスクッと立上がり、まつかな口に、氷のやうなきばをあらはし
熊捕り競争 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
大熊、ひぐま、山猫、とらはんみょう、むささび、麝香鹿じゃこうじか馴鹿トナカイ
フレップ・トリップ (新字新仮名) / 北原白秋(著)
こっちのワゴンのボーイの一人はひぐま
北海道のひぐまさへ
新詩発生時代の思ひ出 (旧字旧仮名) / 土井晩翠(著)
お前は私より知識がある、果断がある、……飯のかわりに、ひぐまの毛の虫を食っても、それほど智慧があり、果断もあれば、話は分ろう。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
この野外撮影は、北海道から持ち来ったひぐまと朝鮮牛とを格闘させて両者の猛撃振りを実演させるのであるから、万一羆が柵外へ跳り出して人に飛び掛からぬとも限らない。
熊狩名人 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
そう云ったかと思うと、勝平はひぐまが人間を襲う時のように、のッと立ち上った。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
但し、熊は熊だが、ひぐまや月の輪ではなく、まんまるく肥った熊の子であります。子熊ではあるけれども、熊は熊に違いないのです。家畜でなくて野獣のうちです。野獣のうちの猛獣に属するものです。
大菩薩峠:30 畜生谷の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ふたつ眼の毛皮のひぐまつるされて吹つかけ過ぎぬ網小舎の雨
海阪 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
試験用のかわずの油揚だと云う、古今の豪傑、千場彦七君が真黒まっくろな服を着けて、高い鼻に、度の強いぎらぎらと輝くまなこで、ござんなれ、好下品おさかなひぐまの皮をじろりと視て
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
……名ばかりの妻、さうです、わたくしはありとあらゆる手段と謀計とで以て、わたくしの貞操をあの悪魔のためにけがされないやうに努力するつもりです。北海道の牧場では、よく牡牛とひぐまとが格闘するさうです。
真珠夫人 (新字旧仮名) / 菊池寛(著)
……名ばかりの妻、そうです、妾はありとあらゆる手段と謀計とでもって、妾の貞操をあの悪魔のためにけがされないように努力するつもりです。北海道の牧場では、よく牡牛おうしひぐまとが格闘するそうです。
真珠夫人 (新字新仮名) / 菊池寛(著)