練物ねりもの)” の例文
その無理がたたって、今でもこの通りだと、逐一ちくいちを述べ立てると先方の女は笑いながら、あの金剛石は練物ねりものですよと云ったそうです。
文芸の哲学的基礎 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
南は芝、西は麹町こうじまち、東は霊岸島、北は神田。百六十余町から出す山車、山鉾が四十六。ほかに、附祭つけまつりといって、踊屋台、練物ねりもの曳物ひきもの数さえつばらに知れぬほど。
練物ねりもの行列 その法会の終りの日に大いなる練物がある。それは一口に言い尽すことが出来ない。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
江戸の住民はいふもさらなり、近在の人も競つて祭の練物ねりものを看に出た。
伊沢蘭軒 (新字旧仮名) / 森鴎外(著)
七八ななやここのツばかり、母が存生ぞんしょうの頃の雛祭ひなまつりには、毛氈もうせんを掛けた桃桜ももさくらの壇の前に、小さな蒔絵まきえの膳に並んで、この猪口ちょこほどな塗椀ぬりわんで、一緒にしじみつゆを替えた時は、この娘が、練物ねりもののような顔のほかは
国貞えがく (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
それはチベットの新教派の五代目の化身で、ンガクワン・ギャムツォという法王が、夢に極楽世界の練物ねりものを見た、その夢の順序に従って始めてこういう練物を始めたんである。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
練物ねりもので作ったのへ指先のもんを押しつけたりして、時々うまくごまかした贋物がんぶつがあるが、それは手障てざわりがどこかざらざらするから、本当の古渡こわたりとはすぐ区別できるなどと叮嚀ていねいに女に教えていた。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)