綿衣わたいれ)” の例文
男は手織り縞の綿衣わたいれをきて、鉄色木綿の石持こくもちの羽織をかさねていた。履物はどうしてしまったのか、彼は跣足はだしであった。
半七捕物帳:28 雪達磨 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ましてある面積を有する平面をそなうるものは必ず両面がある。雁皮紙がんぴしのごときうすい紙でも表裏はある。綿衣わたいれあわせはいうまでもなく、単衣ひとえさえも表裏がある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
背の高い頬骨ほおぼねの出た男で、手織りの綿衣わたいれかすりの羽織を着ていた。話のさなかにけたたましく声をたてて笑うくせがある。石川や清三などとは違って、文学に対してはあまり興味をもっていない。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
綿ぬきという四月にも綿衣わたいれをかさねてふるえている始末であったが、六月になってもとかく冷え勝ちで、五月雨さみだれの降り残りが此の月にまでこぼれ出して
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
いったい衣服きものはなんぼするものかという質問に対しては何人なんぴと一口ひとくちに答えかねる。なぜなれば衣服きものにも単衣ひとえあり綿衣わたいれあり、木綿もめん物もあれば絹織物もある。和服もあれば洋服もある。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
そばでは母親が賃仕事ちんしごとのあい間を見て清三の綿衣わたいれを縫っていた。午後にはどうかすると町へ行って餅菓子を買って来て茶をいれてくれることなどもある。一夜あるよこがらしが吹き荒れて、雨に交ってみぞれが降った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
色の白い、細面ほそおもての、左のに白い曇りのあるやうな、しかし大体に眼鼻立めはなだちの整つた、どちらかといへば美しい方の容貌ようぼうの持主で、紡績飛白ぼうせきがすりのやうな綿衣わたいれを着て紅いメレンスの帯を締めてゐました。