紅々あかあか)” の例文
好きな巻煙草まきたばこをもそこへ取出して、火鉢の灰の中にある紅々あかあかとおこった炭のほのおを無心にながめながら、二三本つづけざまにふかして見た。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
まだ霧こそ深いが、東山のうえは紅々あかあか黎明れいめいに染められている頃なので、往来人のために、常のごとく木戸のくぐりは開かれていた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
コトコトと梯子段を登る音が止んで暫らくすると、六角に連子れんじをはめた高燈籠のしんに、紅々あかあかと燈火が燃え上りました。光明真言の唱えは、それと共に一層鮮やかでえて響き渡ります。
大菩薩峠:18 安房の国の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
鶉の声がます/\えると疱瘡の神はしほ退いて行くやうに、王様からぢり/\と退いて行きます。それと一緒に王様のお顔には、日がさしてくるやうに血の気が紅々あかあかとさして来ます。
孝行鶉の話 (新字旧仮名) / 宮原晃一郎(著)
今朝も泥のような味噌汁と残り飯かと思うと、支那そばでも食べたいなあと思う。私は何も塗らないぼんやりとした自分の顔を見ていると、急に焦々いらいらしてきて、唇に紅々あかあかとべにを引いてみた。
新版 放浪記 (新字新仮名) / 林芙美子(著)
市郎がしゅくを抜けて村境むらざかいに着いた頃には、旭日あさひすで紅々あかあかと昇った。
飛騨の怪談 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
飛火とぶひほのほ紅々あかあか炎上えんじようのひかり忘却の
海潮音 (新字旧仮名) / 上田敏(著)
まぶしげに、人々は、眉の上へ手をかざした。四十六名の顔の一つ一つに、たった今、黎明れいめいの雲を破った朝の陽が、紅々あかあかと燃えついていた。
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ただあの紅々あかあかと燃えた炉の中に、尺八の燃え残りだけが無残に残っておりました。
大菩薩峠:35 胆吹の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ただ夕空に雲の紅々あかあかと燃ゆるのみだったが、長い長い軍隊の列も、ようやく終りになろうとし、陽も没して、夜の灯火ともしびがつきかけるや、わあっと
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
吠える波と、矢たけびに夜は明けて、濃霧の一方から紅々あかあかと旭日の光がさしてきた頃、江上にあった怪船団の影はもう曹操の陣営から見えなくなっていた。
三国志:07 赤壁の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
呼ばれた方を振り向くと、紅々あかあかと照りかがやいている若者たちの顔の中から、堀部弥兵衛老人が
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
朝焼けの雲は紅々あかあかと城東の空にながれていた。同文の矢文が何十本となく射込まれたのを合図に、金鼓の響き、ときの声は、地を震わし、十数万の寄手は、いちどに城へ攻めかかった。
三国志:05 臣道の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
四十に近い年になっても、娘の朱実に劣らない臙脂べに紅々あかあかと溶かしている唇。
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)