糸経いとだて)” の例文
旧字:絲經
向こう岸の土手では糸経いとだてを着て紺の脚絆きゃはんを白いほこりにまみらせた旅商人たびあきんどらしい男が大きな荷物をしょって、さもさも疲れたようなふうをして歩いて行った。
田舎教師 (新字新仮名) / 田山花袋(著)
彼の頬被りした海水帽かいすいぼうから四方に小さな瀑が落ちた。糸経いとだてを被った甲斐もなく総身濡れひたりポケットにも靴にも一ぱい水がたまった。彼は水中を泳ぐ様に歩いた。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
かますを卸してまぐさあてがってどっさり喰わせ、虫の食わないように糸経いとだてを懸けまして、二分と一貫の銭を持って居りますゆえ、大概のものなら駈落かけおちをするのだから路銀に持ってきますが
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
脚絆甲掛こうがけ旅姿、背中に糸経いとだてを背負っている。と、スタスタ行き過ぎた。
任侠二刀流 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
此処ここで夕立をやり過ごすかな、彼は一寸斯く思うたが、こゝに何時いつれるとも知らぬ雨宿りをすべく彼の心はとく四里を隔つるうちに急いで居た。彼は一の店に寄って糸経いとだてを買うてかぶった。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
新宿に下りると、雨がさかんに降って居る。夜も最早もう十時、甲州街道口に一台の車も居ない。媒妁夫婦は、くぐりの障子だけあかりのさした店に入って、足駄あしだと傘とブラ提灯ちょうちんと蝋燭とマッチと糸経いとだてを買った。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)