糊口くちすぎ)” の例文
こういう有様であるから、とても普通なみの小供のように一通りの職業を習得するは思いも寄らず、糊口くちすぎをすることがせきやまでありました。
アンヌ・ハヸランド女史も、鼻がよく利くといふので、ある香料研究所に雇はれて、どうにかその日の糊口くちすぎが出来るやうになつた。
一番多いのが巡礼乞食で、これらは糊口くちすぎのために廻って歩くので冬分はこの大塔へ来て居りますが夏になればチベットの方へ出掛けて行きます。
チベット旅行記 (新字新仮名) / 河口慧海(著)
その流れを堰く網代木あじろぎのように女の腕一つで見事自分の糊口くちすぎをしてみようという意地も張りも逆立って参ります。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
黒猫「どうしてなか/\、わたしなんざあ、自分じぶん自分じぶん糊口くちすぎをしなきやあならないんですからやりきれやせんや」
その人は巴里に集る外国人を相手に仏蘭西語を教えて、それを糊口くちすぎとしているような年とった婦人であったが、英語で講釈をしてくれるので岸本には好都合であった。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
わたし一人だけの糊口くちすぎはいつでもできますから。どうか恩知らずだなどとお思いくださいませんように。あなたはそれほどお情ぶかい方でしたら、どうぞこのお金は……
病人に灸点きゅうてんをして困らぬながら糊口くちすぎ生業なりわいもし、夜は静かに写経などして、ひとり暮しの気易さに馴れてからは、持病も久しく起らないし、この秋は、体もめっきり若返ったふうである。
宮本武蔵:07 二天の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
いざとなれば天秤棒てんびんぼうを肩にあてても自分一人の糊口くちすぎはできると多寡をくくっていたものの、何を楽しみにそんな事をして生きて行くのかということを、彼はこの頃になってしみじみと考えさせられた。
籠釣瓶 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
頭と口とは大分だいぶん距離へだたりがあるので、頭では容易に糊口くちすぎの出来ない世の中だが、鼻は直ぐ近所にあるので、口を養ふのには都合が善かつたものと見える。
彼が自分を延ばして行くということの為には、糊口くちすぎから考えて掛らねば成らなかった。
桜の実の熟する時 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
ある人は極度のヒステリックな状態にちた。その人は親切と物数寄ものずきとを同時に兼ねたような同胞の連に引立てられて、旅人に身をまかせることを糊口くちすぎとするような独逸の女を見に誘われて行った。
新生 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)