端金はしたがね)” の例文
揃っていれば、勿論こんな店にあるべきものではないはずだが、それにしても何程いくらというだろうと、あたいを聞くと、ほんの端金はしたがねだった。
骨董 (新字新仮名) / 幸田露伴(著)
こんどは「そんな端金はしたがねではどないも仕様がない」と乗気にならず、ある日、そのうち五十円の金を飛田のくるわで瞬く間に使ってしまった。
夫婦善哉 (新字新仮名) / 織田作之助(著)
三百円やそこらの端金はしたがね貴方あなたの御名誉をきずつけて、後来御出世の妨碍さまたげにもなるやうな事を為るのは、私の方でもして可好このましくはないのです。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
現に千円と少しの端金はしたがねに困って、僕に借用証文の請判うけはんを頼んでいる。時折見込の曲るのは株屋の意地で仕方がない。
勝ち運負け運 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そして伝平は、雀が餌を運ぶようにして、三十銭五十銭と持って帰るのであったが、その端金はしたがねはまるで焼け石へじゅうじゅうと水を滴らすようなものであった。
(新字新仮名) / 佐左木俊郎(著)
さればといって人の深切も、さすがに娘を落籍ひかしてくれるまでには到らなかったが、女腕で一人を過す片遑かたひま端金はしたがねを積立てても、なかなか蝶吉の体は買取られぬ。
湯島詣 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
「そんな端金はしたがねが、どうなるものかね」と、いいながら、今度は自分で、やけに引出しを引掻き回した。しまいには鎧櫃よろいびつの中まで探したが、小判は一枚も出てきはしなかった。
恩讐の彼方に (新字新仮名) / 菊池寛(著)
わちきはおはんのような人は嫌いなの、お前大層な事を云っているね、金ずくで自由になるようなわちきやア身体じゃアないよ、二十両ばかりの端金はしたがねを千両がねでも出したような顔をして
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それとてもたいてい紋切形もんきりがたの悽文句で、この寺は裕福だと聞いて来たのに、これんばかりの端金はしたがねでは承知ができねえ、もっと隠してあるだろう、有体ありていにいってしまわねえと為めにならねえ
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
ネルロの財布に入る端金はしたがねはいよいよわずかになってしまったのでした。
「なあに、端金はしたがねだからね——」
小説 不如帰  (新字新仮名) / 徳冨蘆花(著)
彼様な奴だから三十両か四十両の端金はしたがねで手を切って、お前をうちへ連れて行って、身体さえ丈夫になれば立派な処へ縁附ける、も無ければ別家べっけをしてもい、彼奴あいつ面当つらあてだからな、えゝ
真景累ヶ淵 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
前借といえば、きっと三百円か五百円かの端金はしたがねに違いない。
島原心中 (新字新仮名) / 菊池寛(著)