稍〻やや)” の例文
斯ういう次第ですから、俊一君の立場には充分同情の余地があります。その兄さんの理解があると思って、双方安心の余りつい稍〻ややのり
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その内容は一見驚くほど似通っていて、一つの調和あるチェーホフ像を浮びあがらせ、稍〻ややもすればほかのロシヤ作家に見られるような毀誉褒貶きよほうへんの分裂がない。
強さとの平均から常に破れて、或る時は稍〻やや強く、或る時は強さをうらやむ外にない弱さに陥る偽善者よ。お前の強さと弱さとが平均していないのはまだしもの幸だった。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
其傍そのかたわらに山あり。声稍〻やや遠く山に登るやうに聞えければ驚きて尋ねしについに行方知れず。
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
ういふ関節の曲り方は此の地方の女にしか見られないものだ。稍〻ややり気味な其の姿勢で、受け口のくちびるを半ば開いた儘、睫の長い大きな目で、放心したやうに此方を見詰めてゐる。
夾竹桃の家の女 (新字旧仮名) / 中島敦(著)
「急に意識が回復し始めて来て、主治医しゅじいもこの分なら生命に別条なかろうと申しましたので、今朝は一同稍〻やや愁眉しゅうびを開いたところです」
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
その形に於ては或る改造が成就されたように見える。立法の主体は稍〻やや移動したかも知れない。
惜みなく愛は奪う (新字新仮名) / 有島武郎(著)
それがもし姉さまの稍〻ややおもやつれのしたとがつたやうなお顔でなかつたら、千恵は却つて恐怖の叫びをあげたかも知れないのです。千恵は動じませんでした。落ちついてさへゐました。
死児変相 (新字旧仮名) / 神西清(著)
社長の仏道発心ぶつどうほっしんは半年ばかり続いた。念仏は稍〻やや下火したびになったけれど、数珠は絶対に離さない。この分では永久かと思われた。
人生正会員 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
これは稍〻やや艮方うしとらへ寄つてをりますので、折からの東風に黒々とした火煙は西へ西へと流れるばかり、幸ひ桃花坊のあたりは火のもかぶらずにをりますが、もし風の向きでも変つたなら
雪の宿り (新字旧仮名) / 神西清(著)
斯うやって大人の仲間に入って稍〻やや一人前の待遇を受けるのは恐ろしく肩身の広いものだ。真正ほんとうの職掌は瘤役でも名義は秘書係だから決して冗員じょういんではない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
しかしこれでは稍〻やや卑怯だと思った折から飲み友達の津田君の玄関で主人公とバッタリ顔を合せてしまった。
一年の計 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
余り黙っていては具合が悪いと思ったのだが、今まで泳いでいて殊更に「好いお天気」もないものだと気がつくと稍〻やや失敗の感じがあった。しかし伯父さんは
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
此奴に泣かされたのは私ばかりでない。同難どうなんの向きが大勢あった。一年たって席稍〻やや暖まると共に、私は多少義侠心が手伝って、美事正面衝突をやってしまった。
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
新太郎君は稍〻やや忌々いまいましかったが、完全に目的を達した次第わけである。家へ帰ると直ぐに
脱線息子 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
とお父さんは稍〻やや面目ないようだった。それで茶の間へ戻ってからも
親鳥子鳥 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と団さんが稍〻やや唐突だしぬけにお父さんのネクタイのピンを問題にした。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
お化粧最中へ、その清が稍〻ややあわただしく
求婚三銃士 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
稍〻やや退屈を感じ始めて話しかけた。
負けない男 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と父親は稍〻やや失望したようだった。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
と三輪さんは稍〻やや機嫌が悪かった。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
稍〻やや不安そうに訊いた。
凡人伝 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
稍〻やや慌しい女中の注進に
好人物 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)