神韻しんいん)” の例文
 この句を解する者いわく、ただ神無月の寂寞せきばくたる有様を現はしたるのみ。しかも禅寺の松葉と見つけたる処神韻しんいんあり、云々と。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
これは芸術家としての、特に大衆作家としての彼の強味でもあると同時に、彼の作品に神韻しんいんともいうべき風格を欠如させている理由でもある。
江戸川乱歩 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
け、その神韻しんいんを感じるにつけ、どなたがあれをお切りになったか、どうしても知りたい気がする。甚だ、つかぬことを
宮本武蔵:03 水の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
泰西たいせいの画家に至っては、多く眼を具象ぐしょう世界にせて、神往しんおう気韻きいんに傾倒せぬ者が大多数を占めているから、この種の筆墨に物外ぶつがい神韻しんいんを伝え得るものははたして幾人あるか知らぬ。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
その発句の神韻しんいんは、到底、後人に第二第三があり得ていないことを信じている。その発句のみではない、その文章がまた古今独歩である。黄金はどこへ傷をつけても、やっぱり黄金である。
大菩薩峠:34 白雲の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さすが蔵帳くらちょうの筆頭にのっている大名物おおめいぶつだけに、神韻しんいん人に迫る気品がある。
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
機械的大仕掛おおじかけの製造盛んに行われ、低廉ていれんなる価格を以て、く人々の要に応じ得べきに至るといえども、元来機械製造のものたる、千篇一律せんぺんいちりつ風致ふうちなく神韻しんいんを欠くを以て、ひとえに実用に供するにとどまり
妾の半生涯 (新字新仮名) / 福田英子(著)
ソノ画ク所花卉かき翎毛れいもう山水人物ことごと金銀泥きんぎんでいヲ用ヒテ設色スルニ穠艶じょうえん妍媚けんびナラザルハナク而モ用筆ようひつ簡淡かんたんニシテ一種ノ神韻しんいんアリ
墨汁一滴 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
「三国志演義」のうちの本文にしばしば見るところの——身に鶴氅かくしょうを着、綸巾りんきんをいただき、手に白羽扇びゃくうせんを持つ——という彼の風采の描写は、いかにも神韻しんいんのある詩的文字だが、これを平易にいえば
三国志:12 篇外余録 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「どこにもおりゃせん。と同時に、どこにでもおる。いわば大気じゃな。神韻しんいん漂渺ひょうびょうとして捕捉しがたしじゃ——はははは、いや、こっちは病知らずだが、おぬしその後、肩はどうだ? 依然としてるか」
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)