矢倉やぐら)” の例文
松をすかしてチラチラ見えるいくつものは、たち高楼こうろうであり武者長屋むしゃながやであり矢倉やぐら狭間はざまであり、長安歓楽ながやすかんらく奥殿おくでんのかがやきである。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抱卵した鰍は、流れの強い底石の、それが矢倉やぐらに組んである石の天井を捜して、卵を産みつけるのである。
鰍の卵について (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
じゃ矢倉やぐらと言うのは、この裏山の二ツ目のすそに、水のたまった、むかしからある横穴で、わッというと、おう——と底知れず奥の方へ十里も広がって響きます。
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ここは浜松城玄黙口げんもくぐち矢倉やぐらのうえである、必死を期した徳川八千の軍勢は、大将家康の本隊と共に、霜こおる夜をついて、いま粛々とみかたが原めざして出陣して行った。
死処 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その温泉を、仮に矢倉やぐら温泉と名づけておきましょう。国鉄から私設鉄道にのりかえて、矢倉駅でおり、すこし山道をのぼると、そこに、温泉村があります。山にかこまれた、けしきのよい温泉です。
天空の魔人 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
矢倉やぐらへむかった消火隊と、武器をとって討手うってにむかった者が、あらかたである。——で、家康いえやすのまわりには、わずか七、八人の近侍きんじがいるにすぎなかった。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
さて出口でぐちから、裏山のそのじゃ矢倉やぐらを案内しよう、と老実まめやかに勧めたけれども、この際、観音かんおん御堂みどう背後うしろへ通り越す心持こころもちはしなかったので、挨拶あいさつ後日ごじつを期して、散策子は
春昼後刻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
鰍は二月から三月へかけて、上流に近い玉石底の矢倉やぐら石の裏に産卵するのであるが、水温が低くなって十二月半ばから、翌年の雪解水の終わろうとする五月下旬までが一番おいしいのである。
水と骨 (新字新仮名) / 佐藤垢石(著)
すわ変事へんじと、旗本はたもとや、役人たちは、得物えものをとってきてみると、外廓そとぐるわの白壁がおちたところから、いきおいよくふきだしている怪火! すでに、矢倉やぐらへまでもえうつろうとしているありさまだ。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
わし、今、来がけに、彼処あすこさ、じゃ矢倉やぐらで見かけたよ、)
春昼 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)