皀莢さいかち)” の例文
麥おほす野の邊をくれば、皀莢さいかちのさやかにてれる、よひ月の明りのまにま、家つくとうれしきかもよ、森の見ゆらく
長塚節歌集:2 中 (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
かれは皀莢さいかち小路の家へはゆかず、馬喰ばくろ町の宿屋へ草鞋わらじをぬぎ、そこから大助に手紙を持たせてやった。風呂を浴びて、夕食のはしを手にしたところへ大助は来た。
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
山のなかに成長して樹木も半分友だちのような三人には、そこの河岸にさやをたれた皀莢さいかちがある、ここの崖の上に枝の細いなつめの樹があると、して言うことができた。
夜明け前:01 第一部上 (新字新仮名) / 島崎藤村(著)
着流きながしと来て、たもとへ入れた、例の菓子さ、紫蘇入しそいり塩竈しおがま両提ふたつさげの煙草入と一所にぶらぶら、皀莢さいかちの実で風に驚く……端銭はしたもない、お葬式とむらいで無常は感じる、ここが隅田おおかわで、小夜時雨さよしぐれ
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
わが父三たび家をうつして、つい燕息えんそくの地を大久保村に卜せられし時、衡門こうもんの傍なる皀莢さいかちの樹陰に茅葺かやぶきの廃屋ありて住むものもなかりしを、折から久斎が老母重き病に伏したりと聞き
礫川徜徉記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
信州でも北半分は、唐辛子とうがらしとか皀莢さいかちさやとか、茱萸ぐみとか茄子なすの木とかの、かわった植物を門口にき、南の方へ行くとわら人形を作りまたは御幣ごへいを立てて、コトの神を村境まで送り出す。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
日本橋横山町の皀莢さいかち小路というのは、両国広小路の盛り場にも近く、表通りは問屋、商舗、旅館などが軒をつらねて、一日じゅう人馬の往来の絶えない地域にあったが
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
皀莢さいかちのやうで更に小さい柔かな葉が繁つて花はふさふさと幾つも空を向いて立つてゐる。すぐさま枝に手を掛けると痛い刺が立つた。放さうとしても逆さに生えた刺なのですぐには放れぬ。
炭焼のむすめ (旧字旧仮名) / 長塚節(著)
皀莢さいかち小路
新潮記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)