白衣はくい)” の例文
而して駒ヶ嶽登臨の客は多くこの地よりするを以て、夏時かじ白衣はくい行者ぎやうじや陸續としてくびすを接し、旅亭は人を以てうづめらるゝと聞く。
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)
一段高いだんの上に、新月を頭上にけたように仰いで、ただひとり祈る白衣はくいの人物こそ、アクチニオ四十五世にちがいなかった。
霊魂第十号の秘密 (新字新仮名) / 海野十三(著)
洋服の若い男が坊さんと相対してすわって居る。医者であろう。左のうでに黒布を巻いた白衣はくいの看護婦の姿が見える。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
この喪章もしょうと関係のある球の中から出る光線によって、薄く照らされた白衣はくいの看護婦は、静かなる点において、行儀の好い点において、幽霊のひなのように見えた。
思い出す事など (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
白衣はくい白髯はくぜん老道士ろうどうし、片手を彼の首にまき、片手を胸にまわして、わがひざきながら、なにやら、かんばしい仙丹せんたんみつぶして、竹童の口へくちうつしにのませてくれる。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かれは白衣はくいをつけた美女で、たもとをもって口をおおいながら泣き叫んでいるのである。
見上げると、高い石の橋欄きょうらんには、蔦蘿つたかずらが半ばいかかって、時々その間を通りすぎる往来の人の白衣はくいの裾が、鮮かな入日に照らされながら、悠々と風に吹かれて行く。が、女は未だに来ない。
尾生の信 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
其眺矚そのてうしよくや甚だ廣濶くわうくわつなるにあらず、否、此處こゝよりはその半腹を登り行く白衣はくいの行者さへ見ゆと言ふなる御嶽の姿も、今日けふは麓の深谷より簇々むら/\と渦上する白雲の爲めに蔽はれて
秋の岐蘇路 (旧字旧仮名) / 田山花袋(著)