画筆えふで)” の例文
旧字:畫筆
ようやく登り詰めて、余の双眼そうがんが今危巌きがんいただきに達したるとき、余はへびにらまれたひきのごとく、はたりと画筆えふでを取り落した。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
「うん、これくらいならこれだけあれば充分だ」と、自分の絵具箱から粗末そまつな使いふるしの、赤、青黄の三原色と、使いふるしの画筆えふでを二本くれたばかりだった。
少し離れて、一枚の朱い毛氈もうせんが敷いてあり、画筆えふでだの、すずりだの、紙だのが散らかっている。その反古ほごのうちには、手習いしたような茄子なすの絵や、鶏の半身などが見えた。
宮本武蔵:05 風の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
とりわけ温泉津の如きせまい谿谷けいこくにそれが集る時、どのカメラも画筆えふでも休んではいられまい。
雲石紀行 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
いしくも思い立ったので、其日そのひからただちに画筆えふでって下図したずとりかかった。
画工と幽霊 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
僕の画道における嗜好たしなみは、それから以後今日こんにちに至るまで、ついぞ画筆えふでを握った試しがないのでも分るのだから、赤や緑の単純な刺戟しげきが、一通り彼女の眼に映ってしまえば
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)