瓦版かわらばん)” の例文
果して、その翌日、枇杷島橋びわじまばしを渡って西の方へ向いて、何か瓦版かわらばんようの紙をひろげて、見入りながら歩いて行くがんりきの百蔵を見る。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
さあっ、大変じゃっ、見たか、聞いたか、たった今出た瓦版かわらばんじゃ、瓦版じゃ。大和五条の天誅組てんちゅうぐみが、下火したびと見えたら又しても乱が興った。
(新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そなたが、江戸に下られたうわさは、瓦版かわらばんでも読んでいた。いやもう、大変な評判で、うれしく思う。さあこれへ進まれるがよい」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
石川県などの在方ざいかたでは、昔の瓦版かわらばんとよく似た一枚刷の読売よみうりものを、歌いながらくるのは必ず女の群であり、是を人によって女万歳おんなまんざいともっていた。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
見ると、橋の袂の広場に人簇ひとだかりがしている。怪しげな瓦版かわらばん売りが真中に立って、何やら大声に呶鳴どなっているのだ。——
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
怨霊に殺されたなどといううわさが立ったら、その日のうちに瓦版かわらばんが飛んで、来月は怪談芝居の筋書になるでしょう。
昔の瓦版かわらばんの読売が進化したようなもので、それでも小説と銘を打った、低級な小本には「千葉心中」と、あからさまな題名をつけて、低級な読者をそそのかした。
芳川鎌子 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
とこのようにすぐともう瓦版かわらばんに起しましてな、町から町へ呼び売りして歩いたげにござりまするぞ。
江戸の辻々に、瓦版かわらばんの読売りが飛んだ。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
岡場所おかばしょ情痴沙汰じょうちざたも、夜盗も、強請ゆすりも、人殺しも、文政末期の世間には相変らず瓦版かわらばんが賑わって、江戸の街はすこしも澄んで来たとは見えない。
鍋島甲斐守 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこで、天性の商売気に独特の宣伝癖が加わって、柏原の駅へ来てから、一枚の瓦版かわらばんを起しました。
大菩薩峠:33 不破の関の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
と言いながら、たもとからさっき両国の橋のたもとで買った瓦版かわらばんを取りだして渡した。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
その日のうちに呼び売りの瓦版かわらばんが飛んで、街々の髪結床や井戸端は、そのうわさで持ちきった日の夕景、——銭形平次のところに相変らずガラッ八の八五郎が、この情報を持ち込んで来たのです。
銭形平次捕物控:130 仏敵 (新字新仮名) / 野村胡堂(著)
その日のうちに瓦版かわらばんが出て辻々を呼び歩く騒ぎ、銭形の平次が寝ずの番で見張っていて、まんまと出し抜かれたというのですから、それは全く江戸っ子を夢中にさせるだけの値打はあります。
そして毎度、瓦版かわらばんの立ち読みでもするような人だかりをみたのであった。