猥談わいだん)” の例文
然し、今度彼がその変った意識で以前のその仲間に話しかけると、不思議なことには、その同じ猥談わいだん組の仲間とは思われない答を持ってやってきた。
工場細胞 (新字新仮名) / 小林多喜二(著)
猥談わいだん猥語わいごも出かねない。巧雲はおとりもちを人にまかせて、いつか小部屋の暗がりに如海をひきいれて口説くぜつしていた。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
君の実感のこもった猥談わいだんでも聞こうじゃないか、と阿部は急にはしゃいだ調子になって、書類を懐に入れ、手を叩いた。
糞尿譚 (新字新仮名) / 火野葦平(著)
夫婦ノ間デ閨房けいぼうノヿヲ語リ合ウサエ恥ズベキヿトシテ聞キタガラズ、タマタマ僕ガ猥談わいだんメイタ話ヲシカケルトタチマチ耳ヲおおウテシマウ彼女ノイワユル「身嗜ミ」
(新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
いわゆる猥談わいだんは詰所のつきものでもあるし、近江之介はこのごうの者でもある。近江之介が嫌な顔を見せたのは、今の長岡の言葉が下品なひびきを持っていたからではない。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
だんだんよいが廻るにつれて、猥談わいだんも出るという調子で、あけみも映画人だから、少々の猥談に辟易へきえきするたちでもなく、三人とも心から、春のように笑い興じたものである。
月と手袋 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
芸術談というのは、むろん武芸十八般に関することで、それには思わず竜之助も釣り込まれることもあるが、そうかと思うと、聞くに堪えない猥談わいだんに落ちて行くこともある。
大菩薩峠:40 山科の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
彼は、自分を子供とあなどり、秋の夜のつれづれに、あたかも彼自身が取調べの主任でもあるかのように装い、自分から猥談わいだんめいた述懐を引き出そうという魂胆のようでした。
人間失格 (新字新仮名) / 太宰治(著)
聞説す、我鬼がき先生、佐佐木味津三君の文を称し、猥談わいだんと題するをすすめたりと。何ぞその無礼なるや。佐佐木君は温厚の君子、幸ひに先生の言をれ、君が日星河岳じつせいかがくの文字に自ら題して猥談と云ふ。
八宝飯 (新字旧仮名) / 芥川竜之介(著)
今から考えれば実にあどけない猥談わいだんに移って行った。
虎狩 (新字新仮名) / 中島敦(著)
猥談わいだん、酒談、博戯ばくぎ、悪事と諸芸、道楽の百般にわたって、この老人の該博がいはくさは、驚くべきものだった。
無宿人国記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「そんなら一つ、得意の猥談わいだんでも聴かせ給え」
少将滋幹の母 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
それを喰べ喰べ五人の大人達が、毎日飽きもせぬ猥談わいだんに笑いこける。その猥談もぼくには決して厭ではない。むしろ異様な好奇心で聞いていた。がしかし、この休み時間が苦痛だった。
わざとらしい猥談わいだんを放って、女客が顔赤らめるのを興がッていた程度だったが、やがてのこと博奕道具を取出すと、ことば巧みに、そこらの乗客を鴨に引きこんで、銭の音やら雑言のやりとりに
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一角はまた猥談わいだんかというふうに少しさげすんで
鳴門秘帖:04 船路の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)