物忌ものいみ)” の例文
あの方は「物忌ものいみばかり続いていたのだ。もう来まいなどとおれが思うものか。どうもお前がすぐそうひがむのが、おれにはおかしい位だ」
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
禁厭まじない祭祝さいしゅく祓除はらいよけ、陰陽道、物忌ものいみ鬼霊きりょう占筮せんぜいなど、多様な迷妄の慰安をもたなくては、生きていられない上流層の人々だった。
平の将門 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その一室には物忌ものいみという札がられ、だれも出入りをしなかった。常陸夫人も二、三日姫君に添ってそこにいた。
源氏物語:52 東屋 (新字新仮名) / 紫式部(著)
ついには旧暦九月の物忌ものいみ開始の日を重要にし、かえって中間の一カ月を、空虚に帰せしめたのではあるまいか。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
禁厭まじない物忌ものいみの手段にかけては、なにひとつ不足のない時代のことだから、道益はこれというほどのことはみなやったが、なお、二人の子供の将来にそなえるために
うすゆき抄 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
ある春雨の日、斉信は「御物忌ものいみ」にこもってアンニュイに苦しめられながら、こんな日には彼女と話がしたいという気持ちになる。「何か言ってやろうか」などという。
日本精神史研究 (新字新仮名) / 和辻哲郎(著)
それでも、中務省なかつかさしょう陰陽寮おんようりょうから出たお話だとすれば、きっとまた何か悪いことが起るに違いないわ。物忌ものいみおこたれば、皐月さつきと云う月にはきまってわざわいが現れるのですもの。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
物忌ものいみりし和魂にぎたま
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
右の話が天つ神の新嘗にいなめ物忌ものいみの日に、富士と筑波と二処の神を訪れて、一方は宿を拒み他方はこれを許したという物語、巨旦将来こたんしょうらい蘇民そみん将来の二人の兄弟が
山の人生 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
「明日は物忌ものいみだから門を強くとざしておけ」などとお言いつけになって入らっしゃるらしかった。
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
その室の御簾みすを皆下げて、物忌ものいみと書いた紙をつけたりした。母夫人自身も迎えに出て来るかと思い、姫君が悪夢を見て、そのために謹慎をしているとその時には言わせるつもりであった。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
男9 (残っている人達に呼びかけるように)本当に、皆さん、お祭り騒ぎに油断をして、物忌ものいみを怠らないように注意しないと、大変な目にいますよ。ことにあなた方お若い御婦人達は……
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
というわけは東京の近く、入海いりうみを隔てて対岸の上総かずさ安房あわとでは、今でも十一月下旬に始まる物忌ものいみの期間を、ミカリまたはミカワリといっているからである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
こういう物忌ものいみがちな長雨頃の、そういう若い人達の、何処へも持ってゆき場のない、じっとしていたくともじっとしていられないような気もちは私にもよく分かっていた。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
弁の尼のほうにもにわかに物忌ものいみになって出かけぬということを言ってやった。
源氏物語:53 浮舟 (新字新仮名) / 紫式部(著)
男9 (右より)何かと云っては、物忌ものいみ物忌と口先ばかりはやかましく云っているようだが、こう云うものは、元来、いくら口うるさく云ってみたところで、それに心が伴わなければ何にもならない。
なよたけ (新字新仮名) / 加藤道夫(著)
多分はこういう物忌ものいみのもとの意味が、誰にもわからなくなってから後の変化で、これもまた我々の通って来た永い年月の精神生活を、回顧する目標には役立つのである。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
あの方も、とうとう外にしようがなさそうに「例の面白くもない物忌ものいみになったか」
かげろうの日記 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
この日してはならぬといった物忌ものいみの範囲は広く、決して女の子の縫い仕事だけではなかった。
年中行事覚書 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
きのうはこちらに物忌ものいみなどいたす者がございまして、御返事もつい書けずにしまいました。その事をどうぞ川水のよどみでもしたかのように、心あってかなんぞとはお思いにならないで下さいまし。
ほととぎす (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
柴指の次にくる甲子きのえねの日ときまっているようで、すなわち私の次に言おうとする鼠の物忌ものいみの日なのだが、是にもまだ明らかになっておらぬ若干の沿革があったらしく思われる。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
私はこの赤い色の食物が、わざと用いられる場合を数多く集めてみて、それが物忌ものいみつねの日との境目さかいめを明らかにするための食物だったことが、証明し得られることを期している。
海上の道 (新字新仮名) / 柳田国男(著)