片側かたかわ)” の例文
ほばしらの様な支柱を水際のがけから隙間すきまもなく並べ立てゝ、其上に停車場は片側かたかわ乗って居るのである。停車場の右も左も隧道とんねるになって居る。
みみずのたはこと (新字新仮名) / 徳冨健次郎徳冨蘆花(著)
余は奥村政信が堺町さかいちょう町木戸まちきどより片側かたかわには中村座片側には人形芝居辰松座たつまつざやぐらを見せ、両側の茶屋香具店こうぐてんの前には男女の往来せるさまを描きしものを見たり。
江戸芸術論 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
と云うやいなや、ひらりと、腰をひねって、廊下を軽気かろげけて行った。頭は銀杏返いちょうがえしっている。白いえりがたぼの下から見える。帯の黒繻子くろじゅす片側かたかわだけだろう。
草枕 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
御案内の通り片側かたかわ籾倉もみぐらで片側町になって居りまして、竹細工屋、瀬戸物屋、烟草屋たばこやが軒を並べて居り、その頃田月堂という菓子屋があり、前町を出抜けて猿子橋にかゝりますると
敵討札所の霊験 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
このまま河岸を出抜けるのはみんな妙に物足りなかった。するとそこに洋食屋が一軒、片側かたかわを照らした月明りに白い暖簾のれんを垂らしていた。この店の噂は保吉さえも何度か聞かされた事があった。
魚河岸 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
片側かたかわは樹と竹藪に蔽われて昼なお暗く、片側はわが歩む道さえ崩れ落ちはせぬかとあやぶまれるばかり
「ええ、なるでしょう。あなた、私の帯の片側かたかわがないんです。何だか足りないと思ったら」
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
片側かたかわに朝日がさし込んでいるので路地のうちは突当りまで見透みとおされた。格子戸こうしどづくりのちいさうちばかりでない。昼間見ると意外に屋根の高い倉もある。忍返しのびがえしをつけた板塀いたべいもある。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
私はかかる風景のうち日本橋を背にして江戸橋の上より菱形ひしがたをなした広い水の片側かたかわには荒布橋あらめばしつづいて思案橋しあんばし、片側には鎧橋よろいばしを見る眺望をば、その沿岸の商家倉庫及び街上橋頭きょうとうの繁華雑沓ざっとうと合せて