燈影とうえい)” の例文
新字:灯影
そのあいだ——開けひろげてあるために明滅の烈しい燈影とうえいを、稲妻のように浴びながら、老公もほかの者も、じいっと座に耐えていた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
予はこうべより氷を浴ぶる心地したりき。折から風の音だもあらず、有明の燈影とうえいいとかすかに、ミリヤアドが目に光さしたり。
誓之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
背景は、ツェッペリンの空襲を怖れて、燈影とうえいほの暗い一九一四、一五年のパリー。
戦雲を駆る女怪 (新字新仮名) / 牧逸馬(著)
池にかえるの声しきりに、燈影とうえい風にしばしばまたたくところ、座するものは紅顔の美少年馬場孤蝶子、はやく高知の名物とたたえられし、兄君辰猪たついが気魂を伝えて、別に詩文の別天地をたくわゆれば
樋口一葉 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
しかしわたくしは橋の欄干に身をせ、見えぬながらも水の流れを見ようとした時、風というよりもほほれる空気の動揺と、磯臭い匂と、また前方には一点の燈影とうえいも見えない事、それらによって
放水路 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
わけてその廊を奥へ行く美人、退がって来る美人——何かを捧げ持って——燈影とうえいの下を楚々そそと通う女性たちの色やにおいにそれが濃い。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そこには泉殿いずみどのとよぶ一棟ひとむね水亭すいていがある。いずみてい障子しょうじにはあわい明かりがもれていた。その燈影とうえいは水にうつって、ものしずかな小波さざなみれている。
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)