無花果いちじゅく)” の例文
丁度この話へ移る前に、上人が積荷の無花果いちじゅくを水夫に分けて貰って、「さまよえる猶太人」と一しょに、食ったと云う記事がある。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
彼は一人で無花果いちじゅくや葡萄をもぐか、それともパンドーラ以外の誰かと一しょに、何か面白い遊びをしようと思って出たのでした。
愛玉只は、黄色味を帯びた寒天様のもので、台湾たいわん無花果いちじゅくの実をつぶして作るのだそうだが、それをさいの目に切ったのの上に砂糖水、氷をかけて食う。
如何なる星の下に (新字新仮名) / 高見順(著)
その間に小さな駈落者らは、大忙おおいそぎで裏庭の雑草を踏み越えて、そこに立っている無花果いちじゅくの樹にじ登った。
青草 (新字新仮名) / 十一谷義三郎(著)
油のために輝いた青い頭の皮膚の上に、無花果いちじゅくの満ちた花園が傾きながら映っていった。世界は今や何事も、下から上を仰がねばフィルムの美観が失われ出したのだ。
上海 (新字新仮名) / 横光利一(著)
横の馬小屋をのぞいてみたが、中に馬はいなかった。馬小屋のはずれから、道の片側を無花果いちじゅくの木が長く続いている。自分はその影を踏んで行く。両方は一段低くなった麦畠である。
千鳥 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
ですからその後のことは何も知らないのです。私の申し上げたことをお疑いになるのなら、わたしの家の裏庭の無花果いちじゅくの根元を掘ってごらんなさい。血をふいた雑巾が埋めてあるはずです。
予審調書 (新字新仮名) / 平林初之輔(著)
昔しだって今だって変りがあるものか。驢馬ろばが銀のどんぶりから無花果いちじゅくを食うのを
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
そこにはうす暗い空と水との間に、濡れた黄土おうどの色をしたあしが、白楊ポプラアが、無花果いちじゅくが、自然それ自身を見るような凄じい勢いで生きている。………
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
甘い葡萄も、熟した無花果いちじゅくも見つかりませんでした(エピミーシウスに一つ悪いところがあるとすれば、それは無花果があんまり好きだという点でした)
その上不思議な事にこの画家は、蓊鬱おううつたる草木を描きながら、一刷毛ひとはけも緑の色を使っていない。あし白楊ポプラア無花果いちじゅくいろどるものは、どこを見ても濁った黄色きいろである。
沼地 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
『いつも葡萄や無花果いちじゅくのことばかり言ってるわ!』と、パンドーラはすねたように叫びました。
第一に、記録はその船が「土産みやげ果物くだものくさぐさを積」んでいた事を語っている。だから季節は恐らく秋であろう。これは、後段に、無花果いちじゅく云々の記事が見えるのに徴しても、明である。
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
従ってもし読者が当時の状景を彷彿ほうふつしようと思うなら、記録に残っている、これだけの箇条から、魚のうろこのようにまばゆく日の光を照り返している海面と、船に積んだ無花果いちじゅく柘榴ざくろの実と
さまよえる猶太人 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
牛車ぎっしゃの行きかいのしげかった道も、今はいたずらにあざみの花が、さびしく日だまりに、咲いているばかり、倒れかかった板垣いたがきの中には、無花果いちじゅくが青い実をつけて、人を恐れないからすの群れは
偸盗 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
みちばたに枯れた無花果いちじゅくといっしょに
河童 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)