ふち)” の例文
ふちが深くて、わたれないから、崖にじ上る。矢車草、車百合、ドウダンなどが、つがや白樺の、まばらな木立の下に、もやもやと茂っている。
白峰山脈縦断記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
絶壁の下をのぞくと、川の水勢と精神とが清い油となつてうどみかかり、おほきなふちとなつて幾重にもうづを卷いてゐる。このところ深さを量り得たものがないと云ふ。
泡鳴五部作:04 断橋 (旧字旧仮名) / 岩野泡鳴(著)
そらいろふちのやうです、なんつたらいでせう。……あをとも淺黄あさぎともうす納戸なんどとも、……」
魔法罎 (旧字旧仮名) / 泉鏡花泉鏡太郎(著)
谷は益々迫つて、ふち水沫しぶきは崖の上をたどつて行く人達の衣を湿うるほすやうになつた。平日ならば成ほどこれはすぐれた山水であるに相違なかつた。紅葉の時の美観もそれと想像が出来た。
山間の旅舎 (新字旧仮名) / 田山花袋田山録弥(著)
筏を組むにはいわゆる川淀のふちをなしてしばらく流木をめ得る所たることを要するが、それと同時に必要な条件は、なるべく近くに筏を結ぶツヅラの多く採取し得らるることである。
地名の研究 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
而も清光湛寂たんじやくふちの底に徹することのあるべきものを、雲憎しとのみおぼさんは、そも如何にぞや、くだれば雨となり、蒸せば霞となり、凝れば雪ともなる雲の、指して言ふべき自性も無きに
二日物語 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)