淪落りんらく)” の例文
のみならず、日本は北支那より退却し、退嬰自屈たいえいじくつの政策の下に、国運の日に淪落りんらくに傾くことを如何ともなし能わざるに至るであろう。
武装せる市街 (新字新仮名) / 黒島伝治(著)
これを如何ともするによしなく、ただ空しく、遠方から淪落りんらくの痴漢の暗き行末を、あわれみの眼もて見送るより外に、せんすべがないのである。
フランス映画「居酒屋」でも淪落りんらくの女が親切な男に救われて一│さらかゆをすすって眠った後にはじめて長い間かれていた涙を流す場面がある。
自由画稿 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
それはただ薄汚いばかりで、本来つまらぬものであり、魂自体の淪落りんらくとつながるものではないと信じていたからであった。
いずこへ (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
放火ひつけをした女、どろぼうした女、殺した女、殺された女、およそ問題になるほどの淪落りんらくの女を調べる気になりました。
大菩薩峠:29 年魚市の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
この見地からして二葉亭は無知なる腹掛股引はらがけももひきの職人を紳士と見て交際し、白粉おしろいを塗った淪落りんらくの女を貴夫人同様に待遇し、渠らに恩恵を施しつつ道徳を説き
二葉亭四迷の一生 (新字新仮名) / 内田魯庵(著)
どこまで淪落りんらくして行く姉であろう、どこまですさんで行く心であろう——一つはそれも心配でならないのだった。
剣難女難 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
静軒はかくの如く阨窮やくきゅう流離の一生を送ったが、異腹の兄の零落するを見てはこれを扶助し、友人の子孫の淪落りんらくするものにもまたその獲る所の金を分ち与えたという。
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
淪落りんらくの雑種の女の美人局つつもたせに掛ったりするので、なか/\内部地方へ入って行けなかった。
生々流転 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
おのれの淪落りんらくの身の上を恥じて、帰ってしまったものとばかり思っていたのである。
デカダン抗議 (新字新仮名) / 太宰治(著)
故に英雄豪傑の不幸に淪落りんらくするは、其人の心、之を然らしむるにはあらずして、皆な天命神意に出づるものなりと。又、ゾホクレス、ヲイリピデス等の戯曲は多くこの傾きあるが如し。
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
あらゆる淪落りんらくとあらゆる不運との極端に、最後の一悲惨が存するものであって、この悲惨は猛然と反抗して立ち、幸福な事実や勢力ある権利などの全体に対して決然と戦いを宣するのである。
しかるにその上﨟が現在はどれほどまで淪落りんらくしているか。
木綿以前の事 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
即ち、僕の青春論は同時に淪落りんらく論でもあるという、そのことは読んでいただけば分るであろう。
青春論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
はやくも宋江の旅情に似た胸には、淪落りんらくの女が夜舟にかなでる絃々げんげん哀々あいあいの声が思い出されている。が、さて、その夜彼が味わったものは何か。もちろん、過去にはあったそんな風雅ではない。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
罪過とは悲哀戯曲中の人物を悲惨の境界に淪落りんらくせしむる動力モチイブ(源因)なり
罪過論 (新字旧仮名) / 石橋忍月(著)
淪落りんらくのどん底に落ちた女が昔の友に救われてその下宿に落ち着き、そこで一さらかゆをむさぼり食った後に椅子いすってこんこんとして眠る、その顔が長い間の辛酸でこちこちに固まった顔である。
映画雑感(Ⅲ) (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
その当然堕ちるべき地獄での遍歴に淪落りんらく自体が美でありうる時に始めて美とよびうるのかも知れないが、二十の処女をわざわざ六十の老醜の姿の上で常に見つめなければならぬのか。
堕落論 (新字新仮名) / 坂口安吾(著)
この青年達は私の「堕落論」とか「淪落りんらく論」がなんとなく本当の言葉であるようにも感じているらしいが、その激しさについてこれないのである。彼等は何よりも節度を尊んでいる。
風と光と二十の私と (新字新仮名) / 坂口安吾(著)