浅蜊あさり)” の例文
旧字:淺蜊
あの喇叭らっぱに似ているのもやはり法螺貝ほらがいと云うのであろうか? この砂の中に隠れているのは浅蜊あさりと云う貝に違いない。……
少年 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
お土産は小雑魚よりも浅蜊あさり、蛤の類、手に手に破れ網の古糸をすき直して拵えたらしい提げものに一ぱいを重そうにして、これ留守居や懇意へのすそ頒け
残されたる江戸 (新字新仮名) / 柴田流星(著)
あの時分は川尻によしが生えていた。潟からは浅蜊あさりしじみはまぐりがよく獲れて、綺麗きれいな模様をした貝殻も多かった。
入江のほとり (新字新仮名) / 正宗白鳥(著)
浅蜊あさりからを店の前の泥に敷いていた自身番の老爺おやじは、かかえていたざるをほうり出して、半七らを内へ入れた。
半七捕物帳:05 お化け師匠 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
『ナニ。生きとるかも知れん。馬鹿け。見てんやい。眼球ア白うなっとるし、睾丸きんたまも真黒う固まっとる。浅蜊あさり貝の腐ったゴト口開けとるばドウするケエ』
近世快人伝 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
まぐろのぬたと云ったのに浅蜊あさりのぬたを持って来た、すると忠太のやつは鼻柱にしわをよせて、本所ほんじょじゃこのごろ浅蜊を鮪って云うようになったのかいってよ、——けっ
源蔵ヶ原 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
魚や肉などは余りに買わないで多くは浅蜊あさりはまぐりまたは鰯売り位を呼込んで副菜にし、あるいは門前の空地に生い茂っているあかざの葉を茹でて浸し物にする事もあった。
鳴雪自叙伝 (新字新仮名) / 内藤鳴雪(著)
ひらひらと風次第になびくが見えたし、場処によると——あすこがもう水道橋——三崎稲荷いなりの朱の鳥居が、物干場の草原だの、浅蜊あさりしじみの貝殻の棄てたも交る、空地を通して
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
今さら驚いて顔役と亀親方だけが、例の浅蜊あさりをザクザク踏みしめる路地の奥を訪れた。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
丼飯どんぶりめしの上へ、いろいろな物の煮汁を、まさにぶっかけたもので、浅蜊あさり汁とかいわしの団子汁とか、鳥の叩き汁とか、野菜と油揚のけんちん汁など、種類が多いので、下等ながら評判であった。
風流太平記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
「と云って、おどかしただけで、実はさんざんのていで引き揚げて来たんですよ。浅蜊あさりッ貝を小一升と、木葉こっぱのようなかれいを三枚、それでずぶ濡れになっちゃあ魚屋さかなやも商売になりませんや。ははははは」
半七捕物帳:32 海坊主 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
家は浅蜊あさりの貝殻を踏みつけた高橋際たかばしぎわの路地にあった。
醤油仏 (新字新仮名) / 吉川英治(著)