浅翠あさみどり)” の例文
そうこうする間に、一月余りは過ぎて、悩ましい後園の春色も衰え、浅翠あさみどりの樹々に、初夏の陽が、日ましに暑さを加えてきた。
三国志:03 群星の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ほとんどその半身をおおうまで、うずだかい草の葉活々いきいきとして冷たそうに露をこぼさぬ浅翠あさみどりの中に、萌葱もえぎあか、薄黄色、幻のような早咲の秋草が、色も鮮麗あざやかに映って
黒百合 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
此花おほよそは薊に似て薊のように鬼々おに/\しからず、色の赤さも薊の紫がゝりたるには似で、やゝ黄ばみたれば、いやしげならず、葉の浅翠あさみどりなるも、よくうつりあひて美しく
花のいろ/\ (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
はらりと音して、寝ながら投げた扇がれたか、欄干をさっかすめて、蒔絵まきえの波がしら立つごとく、浅翠あさみどりの葉に掛って、月かと思う影がゆらぐと、清葉の雪のような頬を照らす。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
橋詰はしづめの、あの大樹たいじゅの柳の枝のすらすらと浅翠あさみどりした下を通ると、樹の根に一枚、毛氈もうせんを敷いて、四隅を美しい河原の石でおさえてあった。雛市ひないちが立つらしい、が、絵合えあわせの貝一つ、たれもおらぬ。
雛がたり (新字新仮名) / 泉鏡花(著)