気先きさき)” の例文
「仰せのとおりですが、お気先きさきやわらいだ折を見はからって、手前から、そろそろと申しすすめてみましょう。お任せくださいますか」
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
度々たびたび来ているうち、その事もなげな様子と、それから人の気先きさきね返す颯爽さっそうとした若い気分が、いつの間にか老妓の手頃な言葉がたきとなった。
老妓抄 (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
木村も葉子も不意を打たれて気先きさきをくじかれながら、見ると、いつぞや錨綱びょうづなで足をけがした時、葉子の世話になった老水夫だった。彼はとうとう跛脚びっこになっていた。
或る女:1(前編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
気先きさきには撃つと見せつつまじろがず張り満つるちから極みなむとす
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
気先きさきあしければ、立ち戻ろうか?」
雪之丞変化 (新字新仮名) / 三上於菟吉(著)
気先きさきうとくて察しられなかった。ベケットもエベットも顔にこそは出さないが、そういうことならどんなにか迷惑したこったろう。
重吉漂流紀聞 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
私に武者振りついても、飽くまで詰責きっせきしようと待構えていた母も、これですっかり気先きさきくじかれて、苦笑するより仕方ありませんでした。そのあと母は泣き出して、おろおろ声で及川に頼むのでした。
扉の彼方へ (新字新仮名) / 岡本かの子(著)
よくりてにほふ焼刃のこの気先きさき新刀は清し冴えに冴えたり
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
それは岡の気先きさきをさえ折るに充分なほどの皮肉さだった。
或る女:2(後編) (新字新仮名) / 有島武郎(著)
よく頭のまわる、気先きさきの鋭い天性の才士で、そつがないとは、この人物のためにつくられた形容かと思われるほど、抜目のない男であった。
無惨やな (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
藤浪はおもりしだるる夜のしじま世界動乱の気先きさき観むとす
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
冬といへば精密機械気先きさきにもリングの寸分すんぶひた感じつつ
黒檜 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
み冬づく西湖のすずきよく冷えて釣られたりけりとほ気先きさき
夢殿 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)