残骸なきがら)” の例文
旧字:殘骸
つぼのごとく長いはなびらから、濃いむらさきが春を追うて抜け出した後は、残骸なきがらむなしき茶の汚染しみ皺立しわだてて、あるものはぽきりと絶えたうてなのみあらわである。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
看護婦の手がかなかったためか、いつまでも兄の枕元に取り散らかされている朝食あさめし残骸なきがらは、掃除の行き届いた自分のうちを今出かけて来たばかりの彼女にとって
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
世界は色の世界である、形は色の残骸なきがらである。残骸をあげつらって中味のうまきを解せぬものは、方円のうつわかかわって、盛り上る酒のあわをどう片づけてしかるべきかを知らぬ男である。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
母はらしたる灰の盛り上りたるなかに、佐倉炭さくらずみの白き残骸なきがらまったきをこぼちて、しんに潜む赤きものを片寄せる。ぬくもる穴のくずれたる中には、黒く輪切の正しきをえらんで、ぴちぴちとける。
虞美人草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)