歯並はなみ)” の例文
大きく見開いた、瀬戸物の様なうつろな目が、空間を見つめ、だらしなく開いた唇の間から、美しい歯並はなみと舌の先が覗いていた。
(新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
歯並はなみも変えなければなりますまい。調った歯並でございますこと。当門二歯と申します。参差歯しんさばにすることに致しましょう」
神州纐纈城 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
急にニッコリ白い歯並はなみを覗かせたのだから、女なら傾国けいこくの一笑というやつ——壁辰、訳もなく釣り込まれて、こっちも、にっと笑ってしまった。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
ハハハと笑って口をあいて見せた歯並はなみが、ばかに細かくて白い。としは、そうさ、七兵衛よりも十歳とおも若いか、笠を取って見たら、もっとずっと若いかも知れない。
大菩薩峠:07 東海道の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
訶和郎を抱き上げようとして身をかがめた奴隷は、足音を聞いて背後を向くと、反絵の唇からむき出た白い歯並はなみが怒気を含んで迫って来た。奴隷は吹かれたように一飛び横へ飛びのいた。
日輪 (新字新仮名) / 横光利一(著)
当世貌とうせいがおは少しく丸く、色は薄模様にして、面道具めんどうぐの四つ不足なく揃へて、目は細きを好まず、まゆ厚く鼻の間せわしからずして次第に高く、口小さく、歯並はなみあら/\として白く、耳長みあつて縁浅く
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
もう火のような目、恐ろしい歯並はなみをした
微笑にッこりする。何時いつ見ても奇麗な歯並はなみだ。
平凡 (新字新仮名) / 二葉亭四迷(著)
おまえのきれいな歯並はなみ
古事記物語 (新字新仮名) / 鈴木三重吉(著)
美しい歯並はなみを隠している様な、非常に美しい人であるのに比べて、手を引かれている龍ちゃんの方は、両眼とも綴じつけられた様な盲目だし、その上ひどく縹緻きりょうが悪いのだ。
悪霊 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
紋縮緬もんちりめんかなにかの二つ折りの帯を巻いて前掛のような赤帯を締めて、濃い化粧のままでべにをさした唇、鉄漿かねをつけた歯並はなみの間から洩るる京言葉の優しさ、年の頃はお松より二つも上か知らん
ばけの様な乱れ髪の鬘の下から、狭い額、ギョロリとした両眼、平べったい鼻、厚い唇、むき出した大きな真白い歯並はなみ彼奴きゃつは「どうだ驚いたか」と云わぬばかりに、ゲラゲラ笑っていたのだ。
恐怖王 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)