正午まひる)” の例文
従来これまでに無い難産なんざんで、産のが附いてから三日目みつかめ正午まひる、陰暦六月の暑い日盛ひざかりにひど逆児さかごで生れたのがあきらと云ふおそろしい重瞳ぢゆうどうの児であつた。
蓬生 (新字旧仮名) / 与謝野寛(著)
一尾又一尾と釣りて正午まひるに至りける頃、船を舟子の寄せければ、それに乗り移りて、父上弟をも迎へ入れ、昼餉す。
鼠頭魚釣り (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
四年あとになりますが、正午まひるというのに、この峠向うの藪原宿やぶはらじゅくから火が出ました。正午しょううまこくの火事は大きくなると、何国いずこでも申しますが、全く大焼けでございました。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
いざり車に乗った薪左衛門と、それを引いた栞とが、野中の道了塚へ着いたのは、正午まひるであった。
血曼陀羅紙帳武士 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
生の争闘を争闘せる人々の剣戟の音を聴きつゝ、私は遥かなる森の廃寺の前に立つて、老木の梢に梟の声を聴き、またはかげらふ正午まひる陽光ひかりを浴びつゝ怠惰な安易を貪つてゐるのではないだらうか。
沈黙の扉 (新字旧仮名) / 吉田絃二郎(著)
旅人の姿をみると、悲しそうな顔をして、情けない声をしぼって哀れを訴えた。また、正午まひるの野良で、一株の木のまわりに集って弁当をつかっている百姓の一団を見かけると、一片ひときれ麪麭パンをねだった。
親ごころ (新字新仮名) / ギ・ド・モーパッサン(著)
かなり正午まひるとも覚しい頃、駕籠はまたしても置き放されて、人のののしる声がやかましい。駕籠屋どもは昼食に一膳飯へでも入ったのだろう。相変らず約束を守って、兵馬には飲めとも食えともいわない。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
白き猫あまたゐねむりわがやどの晩夏ばんか正午まひる近まりにけり
桐の花 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
正午まひるなり……真白き道は海に走れり。
日ぞ正午まひる。油照りする日のしづく
泣菫詩抄 (旧字旧仮名) / 薄田泣菫(著)
田のあなた新墾道にひばりみちの砂利道もしづけかりけりあき正午まひる過ぎ
白南風 (旧字旧仮名) / 北原白秋(著)
田のあなた新墾道にひばりみちの砂利道もしづけかりけりあき正午まひる過ぎ
白南風 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)