檜物町ひものちょう)” の例文
長吉をば檜物町ひものちょうでも植木店うえきだなでも何処どこでもいいから一流の家元へ弟子入をさせたらばとお豊に勧めたがお豊は断じて承諾しなかった。
すみだ川 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
きょうは風が南に変って、珍らしく暖いと思っていると、とりの上刻に又檜物町ひものちょうから出火した。おとつい焼け残った町家まちやが、又この火事で焼けた。
護持院原の敵討 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
おみつというのは芳古堂の娘で、としは今年十九歳、去年の春、日本橋檜物町ひものちょうの「さわ村」というくし屋へ嫁にいった。
さぶ (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
その次の日曜日に檜物町ひものちょうにいる精神病専門の友人の処へ話しに往って、夕方になって帰って来たが、呉服橋から電車に乗るつもりで、停留場へ来たところで
妖影 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
以前、仲之町なかのちょう声妓うれっこで、お若と云ったなまめかしい中年増が、新川の酒問屋に旦那が出来たため色を売るのはきつい法度の、その頃のくるわには居られない義理になって場所を替えた檜物町ひものちょう
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
日本橋の芸妓たちと一緒に手古舞てこまいに出た、その姿をうみの男の子で、鍛冶屋かじやに奉公にやってあるのを呼んで見物させて、よそながら別れをかわした上、檜物町ひものちょうの、我家の奥蔵の三階へ
明治美人伝 (新字新仮名) / 長谷川時雨(著)
山田春塘の著『日本橋浮名歌妓』は明治十六年六月檜物町ひものちょうの芸妓叶家歌吉といへるもの中橋の唐物商とうぶつしょう吉田屋の養子安兵衛なるものと短刀にて情死せし顛末てんまつ
桑中喜語 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
ついでにもう一つ通名とおりながあって、それは横笛である。曰く、清葉、曰く令夫人で可いものを、が詮索に及んだか、その住居すまいなる檜物町ひものちょうに、磨込みがきこんだ格子戸に、門札打った本姓が(滝口。)はおあつらえで。
日本橋 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
女は日本橋檜物町ひものちょう素人屋しろうとやの二階を借りてんでいる金貸かねかしをしている者のむすめで、神田の実業学校へ通うていた。女はそれ以来金曜日とか土曜日とかのちょっとした時間を利用して遊びに来はじめた。
水郷異聞 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
「しんさん、——檜物町ひものちょうか」
ちゃん (新字新仮名) / 山本周五郎(著)