業苦ごうく)” の例文
かみ、天理にさからい、しも、父のおしえを聞かずでは、生きているほど、親の業苦ごうくを深くする不肖ふしょうな者となりましょう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
これはおいを遠矢にかけて、その女房を奪ったとやら申すむくいから、左の膝頭にその甥の顔をした、不思議なかさが現われて、昼も夜も骨をけずるような業苦ごうくに悩んで居りましたが
邪宗門 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
世の中は艱難かんなんの待合室であり、人間は胎内より業苦ごうくを負って生れるという、されば人生は風雪を冒して嶮難けんなん悪路を往くが如く、二十四時寸刻の油断もならぬ酷薄苛烈なものである
評釈勘忍記 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
煩悩ぼんのうほむら、その中での業苦ごうくのがれ難い人間の三界住居ずまい。——それが仏典でいう「火宅」と彼は承知している。
私本太平記:10 風花帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
惰力だりょくの法則はいつのまにか苦痛という意識さえ奪ってしまった。彼は毎日無感激にこの退屈そのものに似た断崖の下を歩いている。地獄の業苦ごうくを受くることは必ずしも我々の悲劇ではない。
十円札 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
生死即涅槃しょうじそくねはんと云い、煩悩即菩提ぼんのうそくぼだいと云うは、悉くおのが身の仏性ぶっしょうを観ずると云うこころじゃ。己が肉身は、三身即一の本覚如来ほんがくにょらい、煩悩業苦ごうくの三道は、法身般若外脱ほっしんはんにゃげだつの三徳、娑婆しゃば世界は常寂光土じょうじゃつこうどにひとしい。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)