桔梗色ききょういろ)” の例文
上るに従って、杉やひのきの青い闇が深まってゆくのと、夏の日の空が桔梗色ききょういろにたそがれてくるのと重なって、忽ち夜に近い心地がしてきた。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お京は薄い桔梗色ききょういろの襟を深く、俯向うつむいて、片手で胸をおさえて黙っていたが、島田をかんざしで畳の上へ縫ったように手をついた。
薄紅梅 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
と、さながら氷柱のように、白光りをしていた刀身が、にわかに色を変えて桔梗色ききょういろとなった。
生死卍巴 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
桔梗色ききょういろに濃かった木曽御嶽の頭に、朝光が這うと微明ほんのりとして、半熱半冷、半紅半紫を混ぜてく、自分は思った、宇宙間、山を待ってはじめて啓示される秘色はこれであると、ああ
奥常念岳の絶巓に立つ記 (新字新仮名) / 小島烏水(著)
そのつめたい桔梗色ききょういろ底光そこびかりする空間を一人の天がけているのを私は見ました。
インドラの網 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
はるかに見える高山の、かげって桔梗色ききょういろしたのが、すっと雪をかついでいるにつけても。で、そこへまず荷をおろしました。
唄立山心中一曲 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
馬のりばかまに、桔梗色ききょういろ袖無そでなしを羽織り、朱房しゅぶさむちを手にして——伊吹の牧へよく乗りまわしに出るのだった。
新書太閤記:03 第三分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
あとでカン蛙はうでを組んで考えました。桔梗色ききょういろ夕暗ゆうやみの中です。
蛙のゴム靴 (新字新仮名) / 宮沢賢治(著)
露のりそうな円髷まるまげに、桔梗色ききょういろ手絡てがらが青白い。浅葱あさぎ長襦袢ながじゅばんの裏がなまめかしくからんだ白い手で、刷毛はけを優しく使いながら、姿見を少しこごみなりに覗くようにして、化粧をしていた。
眉かくしの霊 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)