桂庵けいあん)” の例文
「去年おまえを買ったときには、ちゃんと桂庵けいあんの手を経ているのだ。おまえに夫のないということは、証文面にも書いてあるではないか」
横町には、また、細々こまごました路地がたくさんあります。見世物の木戸番、活動写真の技師、仕事師、夜見世の道具屋、袋物の職人、安桂庵けいあん
浅草風土記 (新字新仮名) / 久保田万太郎(著)
同時に桂庵けいあんにすすめられ、次女のカエも、まだ九歳でしかなかったが、伊勢佐木町通りの吉野屋というお汁粉屋の小女に出してしまった。
下級船員専門の桂庵けいあんの募集広告だ。が、ちっとも希望者がないとみえて、貼り出してあるのは、求人の部ばかりである。水夫・水夫・石炭夫。
掛け取りに来た車屋のばあさんに頼んで、なんでもよいからと桂庵けいあんから連れて来てもらったのが美代みよという女であった。
どんぐり (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
父母の別れ話が、またしても持ちあがり、三人ずつ手分けして、上州と越後えちごへ引きあげることになったところで、銀子はある日また浅草の桂庵けいあんを訪れた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
だから御奉公するにしてもお留守番位なら出来るけれども水仕事は出来ないとよく桂庵けいあんへ断わっておいたのです。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
私は町を歩きながら、片っぱしに桂庵けいあん(口入屋)ののれんをくぐったが、保証人がなく保証人を頼む二円の金の持合わせもないのだから軒並みに断られた。
桂庵けいあんへ歎願しても一人も寄越して呉れないのに十八人もずらりと並んでそれが皆揃いも揃って別嬪だったからね。トラホームや腋臭わきがらしいのは一人もいない。
ぐうたら道中記 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
そいつをひとつ、桂庵けいあんをつとめてもうけようと思うんだが、なんとおっかさん、お前に一肌脱いでもらいてえというのはそこなんだよ、ということにあるらしい。
大菩薩峠:31 勿来の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
庄「いやな奴だ、来ると彼奴あいつあんなことばかり云っている、医者が下手だから桂庵けいあんをしているのだろう」
業平文治漂流奇談 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
娘からお聴きでもございましょうが、芸者の桂庵けいあんという仕事は、並み大抵の人には出来ません。
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
誰か商売の手助けと身のまわりの世話をかねるものをとのことで、下谷したや桂庵けいあんをとおして雇われてきたのだ。お高は、女にしては珍しく、相当学問もあり、能筆でもあった。
巷説享保図絵 (新字新仮名) / 林不忘(著)
「そいつは氣の毒な——元日早々つまらねえことを訊いて惡かつたな、——ところでお前は桂庵けいあんの手を通つて來た娘とも思へないが、此家こゝと何にか引つかゝりでもあるのか」
へたな桂庵けいあん——周旋屋にかかったら、ぽっと出の女などどんな目に会わされるか分らない。
いやな感じ (新字新仮名) / 高見順(著)
それから帰りに覗いて見ましたら、女の家は桂庵けいあんで、おもにあの辺の女郎屋や引手茶屋や料理屋の女の奉公人を出したり入れたりしているようです。
半七捕物帳:51 大森の鶏 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
帰りは大抵夜の九時か十時で、時には十二時になっても帰らぬことがあり、外の行動は抱えには想像もつかなかったが、時には玉捜しの桂庵けいあん廻りであったり
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
司馬道場へ入れる人工にんくをあつめていると聞きだして、身をやつして桂庵けいあんの手をとおしてもぐりこんだ源三郎、久しぶりに八ツやま下の本陣、鶴岡市郎右衛門方へ帰ってきますと
丹下左膳:02 こけ猿の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)
江戸という所は桂庵けいあんと云うものがあって、奉公人の世話をするそうだが、それには受人うけにんがなければいけまいと思い、ふと考え付いたのは、十四年前に別れた実父鹽原角右衞門様は
塩原多助一代記 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
それにしても君一人では当分の内不便だろうから雇婆やといばあさんでも置かねばなるまい。僕の知った桂庵けいあんがあるからその方へ頼んでおこうと僕が今寄って来た。君の方は別にむずかしい支度はあるまい。
食道楽:春の巻 (新字新仮名) / 村井弦斎(著)
「芸者の桂庵けいあん
耽溺 (新字新仮名) / 岩野泡鳴(著)
桂庵けいあんは?」
お徳にはおつうという妹がございまして、これも今年十七になりましたので、この正月から奉公に出ました。桂庵けいあんは外神田の相模屋という家でございます。
半七捕物帳:20 向島の寮 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
この町の桂庵けいあんに引き渡し、東京を希望のものは、また上野まで連れて行くことになっていた。
縮図 (新字新仮名) / 徳田秋声(著)
お迎いにこうかと、手拭を小桶で絞って居ると、最前から板の間で身体を洗って居た婆さんは、年の頃六十四五で、頭の中央まんなかが皿のように禿げて居り、本郷町の桂庵けいあんのお虎と云うもので
政談月の鏡 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
桂庵けいあんは?」
近所の桂庵けいあんでも忌な噂を知っているので、容易に代りの奉公人をよこさなかった。
半七捕物帳:16 津の国屋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
ま「はい桂庵けいあんのお虎さんの所へ参りました」