有難味ありがたみ)” の例文
しかしこの頃煙草の有難味ありがたみを今更につくづく感じるのは、自分があまり興味のない何々会議といったような物々しい席上で憂鬱になってしまった時である。
喫煙四十年 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いつ呼んでも来て呉れる心安こころやすい、明けっぱなしで居られる友達の有難味ありがたみを、はなれるとしみじみとかんじる。
秋風 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
「天気商売をしてゐると初めて太陽てんたう様の有難味ありがたみがわかる。」重役は窓から身を引きながらそれに答へた。
手品師 (新字旧仮名) / 久米正雄(著)
ひねればいつでも湯が出るという生活は、ホテルなどでは、案外にその有難味ありがたみが分らない。住宅で、日常生活の中にそれがあって、初めてその効用があらわれてくる。
ウィネッカの秋 (新字新仮名) / 中谷宇吉郎(著)
たまには誰がげるとはなしに、ふと心に有難味ありがたみを覚えて、ほとんど相手知らずにぼうだっし、ひざまずいて、有難さに、涙にむせぶこともある。誰しも必ずこの経験があるだろう。
自警録 (新字新仮名) / 新渡戸稲造(著)
または朝廷の大官が特別の思召おぼしめしをもって拝領する場合の開墾地は、常に租税の全部を挙げて下さるのであるからして、前のものに比べれば非常に有難味ありがたみの多いものであれば
名字の話 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
此様な資格が俺に取ツて何程の價値がある………假りに子爵が平民よりはえらいといふ特權があるとして見てからが、俺が子爵家の相續人となつたのに何の有難味ありがたみがあるんだ。
平民の娘 (旧字旧仮名) / 三島霜川(著)
だが、そのかずあるおんなにおいを、一つにまとめた有難味ありがたみこもったのが、このにおいなんだ。
おせん (新字新仮名) / 邦枝完二(著)
「ええ、堅気かたぎは辛い、金の有難味ありがたみが身に沁みるぞ」
江戸三国志 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
何を感じたかこの頃ではしきりに年賀状の効能と有難味ありがたみを論じるようになった。今までとはまるで反対の説を述べて平気でいられるところが彼の彼らしいところを表現していて妙である。
年賀状 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
しかし下手人は決して分らない。こんな話を聞かされたりしておどされていたために、いっそうの暑さを感じたのかもしれない。やっと地上へ出たときに白日の光の有難味ありがたみを始めて覚えたのである。
(新字新仮名) / 寺田寅彦(著)