曹司ぞうし)” の例文
杜興とこうは口惜しかったが、祝氏のおん曹司ぞうしたちが相手では怒りもならず、唯々、わけをはなして、哀願と陳弁とにこれつとめるほかなかった。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兵部卿の宮が中宮のお宿直とのい座敷から御自身の曹司ぞうしのほうへ行こうとしていられるところへ按察使あぜち大納言家の若君は来た。
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
春の夜の曹司ぞうしはただしんかんと更け渡って、そのほかにはねずみの啼く声さえも聞えない。
道祖問答 (新字新仮名) / 芥川竜之介(著)
ある日、ちょうど長男の文雄も上洛して曹司ぞうしにいたが、長女の葛木姫が
無月物語 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
こうお言いになってお放しにならぬために、若君は東宮へ伺うこともできずに兵部卿の宮のお曹司ぞうしへ泊まることにした。
源氏物語:45 紅梅 (新字新仮名) / 紫式部(著)
幕末ごろ、熊本の細川藩から、当時十五、六歳の細川護美氏というおん曹司ぞうしが、野州喜連川やしゅうきつれがわの足利家へ養子に入った。
随筆 私本太平記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
皇太后は実家においでになることが多くて、まれに参内になる時は梅壺うめつぼの御殿を宿所に決めておいでになった。それで弘徽殿こきでんが尚侍の曹司ぞうしになっていた。
源氏物語:10 榊 (新字新仮名) / 紫式部(著)
「やあいっ、はやまるなッ。見かけたのは敵ではないぞ。足利殿のおん曹司ぞうしだわ。ひかえろ、ひかえろ」
私本太平記:08 新田帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
兄弟たちも玉鬘に接近するよい機会であると、誠意を見せようとして集まって来て、うらやましいほどにぎわしかった。承香殿じょうこうでんの東のほう一帯が尚侍の曹司ぞうしにあてられてあった。
源氏物語:31 真木柱 (新字新仮名) / 紫式部(著)
都は知らず東国では源氏の名流、武門の雄と見なされている足利氏の曹司ぞうしである。ゆらい遠国者の上洛ほど派手をかざって来るものといわれているのに、ひょうとして、一人で門を叩くなどはおかしい。
私本太平記:01 あしかが帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
お住居の御殿に近い対をこの人の曹司ぞうしにおあてになって、装飾などは院御自身の御意匠でおさせになり、若い女房から童女、下仕えの者までもすぐれた者をおりととのえになった。
源氏物語:44 匂宮 (新字新仮名) / 紫式部(著)
宗家の世つぎにもなるべきおん曹司ぞうしにはちがいないとして
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
そして東宮の御息所みやすどころ桐壺きりつぼ曹司ぞうしで二夫人ははじめて面会したのである。
源氏物語:33 藤のうら葉 (新字新仮名) / 紫式部(著)
上手じょうずだという名のある女御にょご更衣こういのいるつぼね々で心の内では競争心を持ち、表面は風流に交際している人たちの曹司ぞうしの夜ふけになって物音の静まった時刻に、何ということのない悩ましさを心に持って
源氏物語:48 椎が本 (新字新仮名) / 紫式部(著)