むな)” の例文
わたくしはむなしく終吉さんのやまいえるのを待たなくてはならぬことになった。探索はここに一頓挫いちとんざきたさなくてはならない。
渋江抽斎 (新字新仮名) / 森鴎外(著)
二十五年第四高等中学校教授ニ任ゼラレ、以テ今ニ至ル。余ヤ菲才ひさい浅学ニシテ府県ニ文部省ニ奉職シ育英ノ任ニむさぼリ、尺寸せきすんノ功ナク、常ニソノ職ヲむなシクセシコトヲはずのみ
下谷叢話 (新字新仮名) / 永井荷風(著)
そこには甘蠅かんよう老師とて古今ここんむなしゅうする斯道しどうの大家がおられるはず。老師の技に比べれば、我々の射のごときはほとんど児戯じぎに類する。儞の師と頼むべきは、今は甘蠅師の外にあるまいと。
名人伝 (新字新仮名) / 中島敦(著)
世或は予其職をむなしくして、ほしいまゝに述作に耽ると謂ふ。ゑんも亦甚しきかな。
夢寐むびにも忘れなかった郷里くにもとに、二年ぶりで、云わば心ときめかして帰って来た彼らは、そこで暮した二三カ月のうちに、今度はあのイシカリのむなしい野をけつくような思いで考えていた。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)