暮夜ぼや)” の例文
彼の手廻しによる金力が、暮夜ぼやひそかに、各役人の私邸をたたいて、あらゆる手を一夜に打っていたなどは、いうまでもないだろう。
新・水滸伝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
暮夜ぼやひそかに大垣の城下に戸田侯(内匠頭の従弟じゅうてい戸田采女正氏定とだうねめのしょううじさだ)老職の門を叩いて、大学擁立ようりつのことを依嘱いしょくした事実もある。
四十八人目 (新字新仮名) / 森田草平(著)
暮夜ぼやひそかに思うことは、そなたの邸へ赴いて、親しくそなたの手を執って、改悔を促したいと切々こいねがう。
グリュックスブルグ王室異聞 (新字新仮名) / 橘外男(著)
ああして暮夜ぼやひそかに門を叩いて助剣を求めた次第だが、その時、造酒の持ち出した条件というのは、喬之助の妻女園絵をつれて来て自分の手におさめてくれれば
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
私に新たな希望の光がだんだんと明るく燃えだした。私は暮夜ぼや、あの鉛筆のしんほどのラジウムをてのひらの上に転がしては、紅い灯のつく裏街の風景などを胸に描いていた。
柿色の紙風船 (新字新仮名) / 海野十三(著)
或いは、そろそろ暮夜ぼやひそかなる花盗人を真似て、一度や二度ぐらいは、茶々の君に声をたてられて、逃げ帰っておられるやもしれない。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
中尉の同僚友人愛人にしてしかり、いわんや日々中尉の安否を気遣われ、暮夜ぼやその消息に心痛められし御身が、令弟の訃音に接していかばかり悲嘆の涙にむせばるるかは思うだに胸迫り
ウニデス潮流の彼方 (新字新仮名) / 橘外男(著)
そのかん、大塔の本堂では、老僧以下あまたな僧が護摩ごまの壇をめぐッて、日々、未明から暮夜ぼやまで、交代に読経の座を占めたまま、うごかなかった。
私本太平記:07 千早帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
と、暮夜ぼやひそかに、かれの生命が、過去、現在、また将来へ、その凡情ぼんじょうをさまざまに想いめぐらしたにちがいない。
新書太閤記:11 第十一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
忠正は、甥の清盛が、内裏方なので、暮夜ぼやひそかに、六波羅を訪い、情にすがって、命乞いを頼んでいます。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かつて都の若公卿が、身を山伏にやつして、暮夜ぼやひそかに門を叩き、北条幕府の悪政をそしり、そして、みかどを中心とする世直しの急を説いて、加担の血判せよと、自分へせまったことがある。
私本太平記:03 みなかみ帖 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
鴻雁こうがん群れて、暮夜ぼや、碑をめぐって啼いた。
三国志:09 図南の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)