旅商人たびあきゅうど)” の例文
と駒を降りて、慇懃いんぎんに挨拶をし直している様子に、橋守の武士たちは、この旅商人たびあきゅうど、一体何者かしらと、首をかしげ合っていた。
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その裏座敷に、二人一組、別に一人、一人は旅商人たびあきゅうど、二人は官吏らしい旅客がいて憩った。いずれも、やなから、中の河内ごえして、武生へくだる途中なのである。
栃の実 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅商人たびあきゅうどに負えるつつみの中には赤きリボンのあるか、白き下着のあるか、珊瑚さんご瑪瑙めのう、水晶、真珠のあるか、包める中を照らさねば、中にあるものは鏡には写らず。
薤露行 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
いや、ありすぎる——と旅商人たびあきゅうどの堀井弥太は、そう思いながら、彼の磊落らいらくな話しぶりに、誘いこまれて、腹をかかえた。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
一人の旅商人たびあきゅうど、中国辺の山道にさしかかりて、草刈りの女に逢う。その女、容目みめことに美しかりければ、不作法に戯れよりて、手をとりてともに上る。途中にて、その女、草鞋わらじ解けたり。
遠野の奇聞 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
山伏は、先に駈け、旅商人たびあきゅうどていの男が二人、ひとりが手綱を持ち、ひとりは細竹を持って、馬の尻を打ちたたきながら、急ぎに急いで来たのだった。
宮本武蔵:08 円明の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かたわらにいたる旅商人たびあきゅうどは、卒然われがおくちばしれたり。
義血侠血 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
旅商人たびあきゅうどが、堀井弥太では、おかしかろう。——一年に一度ずつ京都みやこ顧客とくい廻りに来る、奥州者の砂金売かねう吉次きちじとは、実は、この弥太の、ふたつ名前だ」
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
すぐ、彼のそばの尾花の中に、もう一人、誰かかがみこんでいた。旅商人たびあきゅうど砂金かね売り吉次だった。
親鸞 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
旅商人たびあきゅうどに身をやつしていたが、その容貌までを変えるため、母里太兵衛は、片鬢かたびんの毛を、焼ごてで焼いて、わざと大きな禿はげをつくっていたし、栗山善助は前歯を数本欠き、井上九郎は、元々
新書太閤記:06 第六分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
文八は、おとといの夕方、江橋林助えばしりんすけ増井川ますいがわの附近で見かけたという怪しげな旅商人たびあきゅうどのことなど思い出していた。それに関連があるのではなかろうか——と、さまざまな想像をめぐらしはじめた。
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「はてな、怪しい旅商人たびあきゅうどだ。これで三度ここを通るが?」
源頼朝 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「いや、旅商人たびあきゅうどといった」
梅里先生行状記 (新字新仮名) / 吉川英治(著)