たた)” の例文
旧字:
が、左の手は、ぶらんと落ちて、草摺くさずりたたれたような襤褸ぼろの袖の中に、肩から、ぐなりとそげている。これにこそ、わけがあろう。
貝の穴に河童の居る事 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
あるひは飲過ぎし年賀の帰来かへりなるべく、まばらに寄する獅子太鼓ししだいこ遠響とほひびきは、はや今日に尽きぬる三箇日さんがにちを惜むが如く、その哀切あはれさちひさはらわたたたれぬべし。
金色夜叉 (新字旧仮名) / 尾崎紅葉(著)
グーセフの想念がぽつんとたたれる。池が消えて、縁もゆかりもない眼無しの大きな牛の頭が、いきなり現われる。馬は歩かず、橇も走らず、ただもう黒い煙のなかに渦を巻く。
グーセフ (新字新仮名) / アントン・チェーホフ(著)
電燈はたたれた。さいわいに満月の夜ごろだから、月はなくても空は真暗というほどではない。
勿体ないが、その卯の花の房々したのが、おのずから押になって、御廚子の片扉を支えたばかり、片扉は、よろいの袖のたたれたようにれ下っていたのだから。
灯明之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)