故事こじ)” の例文
すずりの水がこおった時に、酒をそそいでその水をとかしたので、それから酒を硯水というなどと、ありもしない故事こじを引用した者もある。
母の手毬歌 (新字新仮名) / 柳田国男(著)
告朔こくさく餼羊きようと云う故事こじもある事だから、これでもやらんよりはましかも知れない。しかしやっても別段主人のためにはならない。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
金兵衛はなんでもそれを兜の祟りに故事こじつけようとしているのであるが、勘十郎はさすがに大小を差している人間だけに
(新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
故事こじ出典その他修辞上の装飾には随分、仏書漢籍の影響も見えるが、文脈に至っては、純然たる日本の女言葉である。
『新訳源氏物語』初版の序 (新字新仮名) / 上田敏(著)
かの松浦佐用媛まつうらさよひめが、帰りくる人の姿を海原うなばら遠くに求めて得ず、遂にいわに化したという故事こじから名付けたもので
赤外線男 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それに謡曲や浄瑠璃の故事こじまえているのなぞは、その典拠てんきょを知らないではなおさら解釈に苦しむ訳で、「狐噲こんかい」の曲も大方別にもとづくところがあるのであろう。
吉野葛 (新字新仮名) / 谷崎潤一郎(著)
近頃海外では農芸に電気を応用する事がようやく盛んになろうとしているから、稲妻の伝説と何か故事こじつけが出来そうである。(明治四十一年九月十二日『東京朝日新聞』)
歳時記新註 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
いわ因縁いんねん故事こじ来歴らいれき。友達がいに、ここへズラズラッと並べてやるから耳の穴をかっぽじって、よく聞いていねえ。……手めえの叔父というのは、武蔵国新井方村むさしのくにあらいかたむらの水呑百姓。
御謙遜ごけんそんじゃ。それがしなど、年のせいか、近頃は、うるさい故事こじ有職ゆうそくなどは、とんと、忘れがちで困る。……ならば、こちらから、音物をたずさえて、教えてもらいたいくらいだ。ははは』
新編忠臣蔵 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
「成程。承わって見れば、意味深長な故事こじでございますな」
ガラマサどん (新字新仮名) / 佐々木邦(著)
だが、一旦綺麗に足を洗って置いて、それから担当の仮親かりおやこしらえりゃあ又どうにか故事こじつけられるというものだ。又それが面倒だとすれば、今も言う通りどこへか囲っておく。
両国の秋 (新字新仮名) / 岡本綺堂(著)
結局五行説ごぎょうせつか何かへ持って行って無理に故事こじつけているところがおもしろい。
化け物の進化 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
「わかった、わかった、なんのわけはない、そんなことなら、もうこっちのもんだ。いかに藤波が眼はしがきいたって、こういう故事こじは知るまいから、とてもそこまでは探索はとどくまい」
顎十郎捕物帳:10 野伏大名 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
元朝げんちょう故事こじだの、そして昨年度は、全国的に気温が高く、五穀豊作でもあったから、楮幣の裏付けは、充分に可能なはずであるなどと、自分の経済観から割り出したかぎりのものをかたむけた。
故事こじさ」
嫁取婿取 (新字新仮名) / 佐々木邦(著)