放蕩無頼ほうとうぶらい)” の例文
侠者子路はまずこの点で度胆どぎもかれた。放蕩無頼ほうとうぶらいの生活にも経験があるのではないかと思われる位、あらゆる人間へのするどい心理的洞察どうさつがある。
弟子 (新字新仮名) / 中島敦(著)
ところが不幸にもその養子になった男がすこぶ放蕩無頼ほうとうぶらいの徒で、今まで老婆が虎の子の様な溜めておいた金を、何時いつしか老婆をだまだまし浪費して
暗夜の白髪 (新字新仮名) / 沼田一雅(著)
放蕩無頼ほうとうぶらい、箸にも棒にも掛らない長庵だが、この初恋の女お六だけは、その後も、何ということもなく忘れ得ずに、かくして時どき思い出している。
魔像:新版大岡政談 (新字新仮名) / 林不忘(著)
定明は自分の生い立ちを知ることと、彼自身の放蕩無頼ほうとうぶらいとはよく調和されているほど、反省も顧慮もしなかった。
野に臥す者 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
前々から私の放蕩無頼ほうとうぶらいに業を煮やして居た父は、ぴたりと生活費の支給を止めてしまったのでありまして、そうなると否でも応でも自分から働かねばならず
陳情書 (新字新仮名) / 西尾正(著)
放蕩無頼ほうとうぶらいの兄が、父にたびたび無心をした揚げ句、父が応ぜぬのを憤って、棍棒を振って、打ってかかったのを居合せた弟が見るに見兼ね、棍棒をもぎとるなり
若杉裁判長 (新字新仮名) / 菊池寛(著)
自分が二十四歳の時に放蕩無頼ほうとうぶらいで父も呆れ、勘当をすると云った時に、此の短冊を書いて僕に渡し、おのれの様な親に背いた放蕩無頼の奴は無いが決して貴様を怨みん
松と藤芸妓の替紋 (新字新仮名) / 三遊亭円朝(著)
おやじが放蕩無頼ほうとうぶらいに身を持ちくずしたため、とうとう乞食とまで成り果てて今に住まうに家もなく
貧乏物語 (新字新仮名) / 河上肇(著)
ふと老人は鶴子がみさおを破ったのはあるいは放蕩無頼ほうとうぶらいな倅にあざむかれたためではないかという気がした。
つゆのあとさき (新字新仮名) / 永井荷風(著)
……恥を申さねばなりませんが、手前には、長一郎という長男がございましたが、これがいかにも放蕩無頼ほうとうぶらい。いかがわしいものをかたらって町家へ押借おしかり強請ゆすりに出かけます。
顎十郎捕物帳:08 氷献上 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
因果いんが応報という仏氏の教えを今という今、あきらかに覚りました。わたくしの若いときは放蕩無頼ほうとうぶらいの上に貧乏でもありましたので、近所の人びとの財物を奪い取った事もしばしばあります。
放蕩無頼ほうとうぶらいで、人を人とも思わない変りものの兄が、何となく、ちょっと可哀そうに思われて来た。
口笛を吹く武士 (新字新仮名) / 林不忘(著)
つねから放蕩無頼ほうとうぶらい、知行はすべて前納でとっくにとってしまい、おまけに博奕わるさこうじて八方借金だらけ——見るに手も足も出ない鈴川源十郎着流しに銀拵えの大小をグイとうしろに落として
丹下左膳:01 乾雲坤竜の巻 (新字新仮名) / 林不忘(著)