擱筆かくひつ)” の例文
科学と文学という題のもとに考察さるべき項目はなお多数であろうが、まずこのへんで擱筆かくひつして余は他の機会に譲ることとする。
科学と文学 (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
偶々たまたま感じ候故ついでに申上候。荒木令嬢の事、かく相迎あいむかえ候事と決心仕候。しかし随分苦労の種と存候。夜深く相成候故擱筆かくひつ仕候。草々不宣。
鴎外の思い出 (新字新仮名) / 小金井喜美子(著)
なお彼の警戒すべき性格については、以上のほかいくらでも話があるように思うが、今日は疲れたから、これで擱筆かくひつしよう。
偽悪病患者 (新字新仮名) / 大下宇陀児(著)
さて、かかる光景をしゃべっているうちに予定の紙数は尽きてしまった。芝居の本文は他の連中へ譲って私はこれで擱筆かくひつする。
めでたき風景 (新字新仮名) / 小出楢重(著)
A・コカインのスプレーで睡魔を防ぎながらヤットここまで書いて参りましたが、もう夜がしらけかかって脳味噌がトロトロになりましたから擱筆かくひつします。
少女地獄 (新字新仮名) / 夢野久作(著)
読者諸君、回数にかぎりあり、この物語はこれにて擱筆かくひつします。もし諸君が人々の消息を知りたければ六年前に一高の寮舎りょうしゃにありし人について聞くがよい。
ああ玉杯に花うけて (新字新仮名) / 佐藤紅緑(著)
人格と技能を兼ね具えた上に、特に美の含有量の多い良寛様の書は、私の知る限り徳川期の第一人者であることを大声疾呼して擱筆かくひつしたい。(昭和二十七年)
「何かまだ申上度儀御座候やうながら、あまり長事ながきこと故、まづ是にて擱筆かくひつ奉待後鴻候こうこうをまちたてまつりそろ頓首とんしゆ。」此に二月十九日の日附があり、壽阿と署してある。あては苾堂先生座右としてある。
寿阿弥の手紙 (旧字旧仮名) / 森鴎外(著)
これはいずれ機を得て追々発表することとし、今度はひとまずこれで擱筆かくひつ。(衣水いすい
せめて、この案内者を、彼の家にまで送り届けて擱筆かくひつしなければならない。
案内人風景 (新字新仮名) / 百瀬慎太郎黒部溯郎(著)
しかしそれは最早もはや八月八日分の日記ではなくなるから、ここで擱筆かくひつする。
これ以上、貴重な誌面をふさぐ罪をおそれて、擱筆かくひつさせていただく。
随筆 新平家 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
ヨブ記著者が普通の文士ならばここでヨブ記を終局とすべきであった。しかしながら著者は十九章を以て擱筆かくひつしなかった。この信仰の絶頂に達しても、なおその後に学ぶべき多くの事があるのである。
ヨブ記講演 (新字新仮名) / 内村鑑三(著)
(一九一七、六、一三、鶏鳴を聞きつつ擱筆かくひつ
カインの末裔 (新字新仮名) / 有島武郎(著)
この問題に関しては述ぶべき事はこれに尽きないが、与えられた紙幅が既に尽きたから、これで擱筆かくひつする外はない。執筆の動機はただ我邦学術の健全なる発達に対する熱望の外には何物もない。
学位について (新字新仮名) / 寺田寅彦(著)
このほか、白銅貨の効用は甚だ多種なるも約束の紙数に達したれば擱筆かくひつする。要するに十銭白銅貨は単なる貨幣だとばかり考えているかたがあったら、それは正に大なる認識不足であると申すべきである。
白銅貨の効用 (新字新仮名) / 海野十三佐野昌一(著)
かく雑然と書いていると長くなるので擱筆かくひつする。
として、擱筆かくひつさせた。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
かく雑然と書いていると長くなるので擱筆かくひつする。
油絵新技法 (新字新仮名) / 小出楢重(著)