にぎり)” の例文
いよいよ死んじまえと思って、体を心持あとへ引いて、手のにぎりをゆるめかけた時に、どうせ死ぬなら、ここで死んだってえない。
坑夫 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
幸に先生は維納府外数里の地に住居すまいでありました。拙者一見手をにぎりてほとんど傾蓋けいがいおもいをなしました。拙者先生に引かれてその住居へきました。
禾花媒助法之説 (新字新仮名) / 津田仙(著)
駒吉の頑丈で色が黒くて、眼鼻立ちの立派なのと對照して、周吉はしなびて小さくて、一とにぎりほどの中老人です。
これよりさき、相貌堂々として、何等か銅像のゆるぐがごとく、おとがいひげ長き一個の紳士の、にぎりしろがねの色の燦爛さんらんたる、太くたくましステッキいて、ナポレオン帽子のひさし深く、額に暗きしわを刻み
婦系図 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
もっとも輸出向によく見るように蛇の身をぐるぐる竹に巻きつけた毒々しいものではなく、彫ってあるのはただ頭だけで、その頭が口を開けて何かみかけているところをにぎりにしたものであった。
彼岸過迄 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)