揉上もみあ)” の例文
並んだ小屋は軒別に、声を振立て、手足を揉上もみあげ、躍りかかって、大砲の音で色花火を撒散まきちらすがごとき鳴物まじりに人を呼ぶのに。
革鞄の怪 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
云うかと見ると、博士は揉上もみあげのところを指でつまんで、まるで顔の皮を剥ぎでもするように、いきなりメリメリと引きむしり始めた。
悪魔の紋章 (新字新仮名) / 江戸川乱歩(著)
萬歳ばんざい難有ありがたいが、おにともまんず荒男あらくれをとこが、前後左右ぜんごさゆうからヤンヤヤンヤと揉上もみあげるので、そのくるしさ、わたくし呼吸いきまるかとおもつた。
雪よりも白いえりの美くしさ。ぽうッとしかも白粉しろこを吹いたような耳朶みみたぶの愛らしさ。匂うがごとき揉上もみあげは充血あかくなッた頬に乱れかかッている。
今戸心中 (新字新仮名) / 広津柳浪(著)
揉上もみあげの心持ち長い女の顔はぽきぽきしていた。銀杏返いちょうがえしの頭髪あたまに、白いくしして、黒繻子くろじゅすの帯をしめていたが、笹村のそこへ突っ立った姿を見ると、笑顔えがおで少しすすみ出て叮寧に両手をいた。
(新字新仮名) / 徳田秋声(著)