ひかえ)” の例文
で、ひろ座敷の入口のほうをふりかえって見ると、ひかえ座敷と広座敷のちょうどあいだくらいのところで、佐原屋が俯伏せになって倒れている。
顎十郎捕物帳:14 蕃拉布 (新字新仮名) / 久生十蘭(著)
らず従つて御尊父様の御親交ある松井まつい博士の紹介あらば自然御就任の事となるべしと考へ小生もあまり騒立てぬ方かへつてよろしからむとひかえ
書かでもの記 (新字旧仮名) / 永井荷風(著)
美人連は、そわそわとして持場持場についたり、ひかえへ出て行ったりして、そこに残るものは福兄とお角の二人だけです。
大菩薩峠:21 無明の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)
今、一息ついて、何か侍臣たちと哄笑しながら、弓場のひかえへ来て、汗をぬぐっていたが、ふと老臣の佐渡の顔を見かけて
宮本武蔵:06 空の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
抵抗のできないように彼を一緒にひきずりながら、舞踏室から隣の小さなひかえへと跳び込んだ。
葬礼のひかえのようにさかさとじなどと言うあくはしてありませんから、何なら、初筆しょふでを一つ……
露萩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
津田がこんな感想にとらえられて、ひかえに立ったまま、室を出るでもなし、席につくでもなし、うっかり眼前の座蒲団を眺めている時に、主人側の清子は始めてその姿を縁側のすみから現わした。
明暗 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
石浜神社は小社なれどもその古きをもて知られ、真先稲荷は社前に隅田川をひかえて、遥に上は水神の森鐘が淵のあたりより下は長堤十里白くして痕なき花の名所の向島を一望の中に収むるをもて名あり。
水の東京 (新字旧仮名) / 幸田露伴(著)
かみはおひかえなさらずに
御用部屋、ひかえ部屋、書院、つめ、奥、お表、どんな所にも、冬は火の気があったし、大きなも切ってあった。
新書太閤記:01 第一分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
五人組改帳ごにんぐみあらためちょう」だとか、「奇特孝心者きとくこうしんものひかえ
大菩薩峠:24 流転の巻 (新字新仮名) / 中里介山(著)