捻出ねんしゅつ)” の例文
結納金ゆいのうきんは二十円、それも或る先輩からお借りしたものである。挙式の費用など、てんで、どこからも捻出ねんしゅつの仕様が無かったのである。
帰去来 (新字新仮名) / 太宰治(著)
高信は向直った、「かかる巨額の金を、疲弊した藩政より捻出ねんしゅつするというは考えられぬ、これにはなんぞ仔細があろう、訳を聞かせい」
入婿十万両 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
それは猿沢の借金を支払うために、勤め先で金を借りたものですから、月々の給料からそれをさし引かれ、飲み代が捻出ねんしゅつできなくなったからでした。
Sの背中 (新字新仮名) / 梅崎春生(著)
創造は吾々自らの捻出ねんしゅつし得るものではない。もし創意を工夫する者があるならば、彼に残るものはただ拘束のみだということを知るに至るであろう。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
この句もとより幼穉ようちなりといへども、しかも三日月を捻出ねんしゅつしかつ一気呵成かせいにものしたる処、はるかに蒼虬の上にあり。
俳諧大要 (新字旧仮名) / 正岡子規(著)
いや、それよりも差し当たり大問題なのは、あと四十九回の治療代をどうして捻出ねんしゅつすべきかということだった。
幸運の黒子 (新字新仮名) / 海野十三(著)
それらの人々の第一に懸念するところは、兵員の不足であり、また戦争遂行に要する財源の捻出ねんしゅつだった。
三国志:10 出師の巻 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
その上それを上演する熱望にられて管弦楽団を組織し、長い間の練習を重ねて、どうせもうかるはずのない上演まで、驚くべき費用をどこからか捻出ねんしゅつしなければならないだろう。
楽聖物語 (新字新仮名) / 野村胡堂野村あらえびす(著)
従って兵部の大丞黒田清隆は、その歳費の捻出ねんしゅつについて、先ずおのれの出身地たる鹿児島藩から十万石を召しあげること、並びに政府の上級官吏たる勅奏任官の減俸を提議した。
石狩川 (新字新仮名) / 本庄陸男(著)
当時、秋田藩の財政は極度に逼迫ひっぱくして、藩主の江戸参覲さんきんにもその費用の捻出ねんしゅつに窮するくらい、その他の事は一々記するいとまもないほどであった。
蕗問答 (新字新仮名) / 山本周五郎(著)
個人の作を見よ、いかに自然への帰依きえが薄いか、いかに主我の念が強いか、いかに個性の捻出ねんしゅつにいら立っているか。そこには帰依は見られず尊大のみ残る。敬虔けいけんは失われ傲慢ごうまんのみ残る。
工芸の道 (新字新仮名) / 柳宗悦(著)
では、ない金、ない米を、秀吉はどう捻出ねんしゅつしたろうか——である。
新書太閤記:07 第七分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
この多端な戦国にその厖大ぼうだいな費用をどこから捻出ねんしゅつする気か。
新書太閤記:10 第十分冊 (新字新仮名) / 吉川英治(著)