指頭しとう)” の例文
それから主人は鼻の膏を塗抹とまつした指頭しとうを転じてぐいと右眼うがん下瞼したまぶたを裏返して、俗に云うべっかんこうを見事にやって退けた。
吾輩は猫である (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
指頭しとうあるき、つるぎばしり、胸坂鼻越むなさかはなごすじすべり、手玉てだまにあつかわれてまわっていたが、ふたたび、蛾次郎がヤッと空へ飛ばしたとき、——オオ
神州天馬侠 (新字新仮名) / 吉川英治(著)
彼はこう云いながら、指頭しとうは忙しく例の鑵の中を探っていたが、生憎もう南京豆が残り少くなって、中々撮み出せないのだ。彼はとうとう鑵を斜めにしてのぞき出した。
急行十三時間 (新字新仮名) / 甲賀三郎(著)
菘庵は、指先で血を取って、指頭しとうで捻って小首をかしげていたが、急にひきしまった顔つきになって
画龍点睛がりゅうてんせいという言葉がある。龍をえがいて眼をてんずる! この点睛に相違ない。『しとう』というのは『指頭しとう』のことだろう。指先ということに相違ない。『きようだ』というのは『強打』なんだろう。
南蛮秘話森右近丸 (新字新仮名) / 国枝史郎(著)
彼はハッとして指頭しとうを改めた。
棺桶の花嫁 (新字新仮名) / 海野十三(著)
しかし彼女はこの時既に自分の胎内にうごめき掛けていた生の脈搏みゃくはくを感じ始めたので、その微動を同情のある夫の指頭しとうに伝えようとしたのである。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
指頭しとうに触れるピンピンいう音が、秒を刻む袂時計たもとどけいの音と錯綜さくそうして、彼の耳に異様な節奏を伝えた。それでも彼は我慢して、するだけの仕事を外でした。
道草 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)
誠は指頭しとうよりほとばしって、とが毛穎もうえいたんに紙を焼く熱気あるがごとき心地にて句をつづる。白紙が人格と化して、淋漓りんりとして飛騰ひとうする文章があるとすれば道也の文章はまさにこれである。
野分 (新字新仮名) / 夏目漱石(著)