あわ)” の例文
極めてゆるやかに、極めて軽やかに梶棒を上にしてひっくり返った。私をのせた若い車夫はあわてて体を反らせ、惰力を制して止った。
突堤 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
そうしては時時かれの方を眺めながら、かれの視線に出会すとあわてて視線を外らし、いくらかあわてて声をへどもどさせるのである。
幻影の都市 (新字新仮名) / 室生犀星(著)
「何だか渓まで温かそうに見えますね」と年若い友は云いながら手をさし延ばしたが、あわてて引っ込めて「氷の様だ」と云って笑った。
みなかみ紀行 (新字新仮名) / 若山牧水(著)
ふだんからそう考えていたので、その朝争われぬ証拠を見せつけられても、あわてもせず驚きもしなかった。びっくりしたのはむしろ曾乃刀自の方である。
私はあわてて私の蝋燭を消した。それが魚住らしいのを認めたからだった。私はいつかの植物実験室の時から、彼が私を憎んでいるにちがいないと信じていた。
燃ゆる頬 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
其処には此方をぬすみ見するようにしている少女の眼があった。少女はあわてて往ってしまった。
竇氏 (新字新仮名) / 田中貢太郎(著)
あわてゝ栄一は飛び出して来て、病車の側を静かに歩んだ。栄一は殆ど泣き出しさうであつた。
考へ事をして歩いて居たれば不意のやうにあわてゝ仕舞ました、よく今夜は來て下さりましたと言へば、あれほど約束をして待てくれぬは不心中とせめられるに、何なりと仰しやれ
にごりえ (旧字旧仮名) / 樋口一葉(著)
私はあわてて近くの木に攀じ上り、霧のれるのを待つことにした。其の時である。ピューンピューンという何かの声が霧の底からかすかに聞えて来た、冴えた尻上りの細いがよくとおる声だ。
鹿の印象 (新字新仮名) / 木暮理太郎(著)
あわただしい市街生活の哀愁あいしゆうに縺れる……
東京景物詩及其他 (新字旧仮名) / 北原白秋(著)
しかも三十前の男女が恐しい風をしてまだ蚊帳の中に寝てゐる。あわてゝ其処を閉めたが、サテ他にはその反対側に今一つきり部屋がない。
岬の端 (新字旧仮名) / 若山牧水(著)
あわてて遠くから母親が盛に顔をしかめ手や首を振って止めた。玉子を持ったら忘れても一太は駈けてはならぬ。
一太と母 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
その銃声でもってそこに私が居ることにやっと気がついて、彼女はちょっと逃げようとするような身振りをしたが、その瞬間、私はあわてて振りかえって、お辞儀をした。
三つの挿話 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
枕もとには、れいの行燈がぼんやり点れたきりで、堀も、深寝をしているらしくいびきさえかかなかった。あわてて行燈の小抽斗を開けてみると、寝る前に入れたとおりに櫛がしまわれてあった。
(新字新仮名) / 室生犀星(著)
さう叫びながら漁師たちはあわてゝ小舟を濱からおろした。わけのわからぬまゝに私も促されてそれに乘つた。二人は漕ぎ、一人はせつせと赤い小旗を振つてゐた。
樹木とその葉:03 島三題 (旧字旧仮名) / 若山牧水(著)
お茂登は一層あわてて、その辺をきょろきょろした。すると、まだ角に佇んでいる三四人の中から、源一ではなく、お茂登の見知らない一人の兵隊が白い手袋をはめた手を夜目に動かして
その年 (新字新仮名) / 宮本百合子(著)
私ははじめて気がついたように、あわててあの方をお迎えした。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
ただ、あっちに火柱が立ったり、こっちに煙が出たりする時のことを考えると、あなたがそのお守りと云うわけではないけれど、何だか一目見ておく方があわてかたが少なそうに思えるのよ。
私ははじめて気がついたように、あわててあの方をお迎えした。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あわてて飛んできた魔女が私からその壜を取り戻さうとして
鳥料理:A Parody (旧字旧仮名) / 堀辰雄(著)
あわてて飛んできた魔女が私からその壜を取り戻そうとして
鳥料理 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あわててそこから引っ返して来た。
菜穂子 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)
あわててそこから引っ返して来た。
楡の家 (新字新仮名) / 堀辰雄(著)