極めてゆるやかに、極めて軽やかに梶棒を上にしてひっくり返った。私をのせた若い車夫は惶てて体を反らせ、惰力を制して止った。
そうしては時時かれの方を眺めながら、かれの視線に出会すとあわてて視線を外らし、いくらか惶てて声をへどもどさせるのである。
「何だか渓まで温かそうに見えますね」と年若い友は云いながら手をさし延ばしたが、惶てて引っ込めて「氷の様だ」と云って笑った。
ふだんからそう考えていたので、その朝争われぬ証拠を見せつけられても、惶てもせず驚きもしなかった。びっくりしたのはむしろ曾乃刀自の方である。
私は惶てて私の蝋燭を消した。それが魚住らしいのを認めたからだった。私はいつかの植物実験室の時から、彼が私を憎んでいるにちがいないと信じていた。