急心せきごころ)” の例文
えりから寒くなって起きて出た。が、寝ぬくもりの冷めないうち、早くかわやへと思う急心せきごころに、向う見ずにドアを押した。
鷭狩 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急心せきごころに草をじた欣七郎は、歓喜天の御堂より先に、たとえば孤屋ひとつや縁外えんそとの欠けた手水鉢ちょうずばちに、ぐったりとあごをつけて、朽木の台にひざまずいて縋った、青ざめた幽霊を見た。
怨霊借用 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
急心せきごころかっとなって、おののく膝をいて、ぐい、と手を懸ける、とぐったりしたかいなが柔かに動いて、脇明わきあけすべった手尖てさきが胸へかかった処を、ずッと膝を入れて横抱きにいだき上げると
星女郎 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
雑所も急心せきごころに、ものをも言わず有合わせた朱筆しゅふでを取って、乳を分けてあかい人。
朱日記 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)
ひざをついて、天井を仰いだが、板か、壁か明かならず、低いか、高いか、さだかでないが、何となく暗夜やみよの天まで、布一重ひとえ隔つるものがないように思われたので、やや急心せきごころになって引寄せて、そでを見ると
伊勢之巻 (新字新仮名) / 泉鏡花(著)